胃がん治療の新たなターゲット「クローディン18.2」を狙い撃ち 日本発の新薬が米国の第一治療に
がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で勤務する腫瘍外科医、生駒成彦医師のリポート第9回は、胃がん治療の新たなターゲットとなっている「クローディン18.2」についてです。
【発生頻度 日本の10分の1以下 欧米ではまれながん】
ピロリ菌の発見と除菌が広まったおかげで、日本での胃がんの発生率は急激に減少しています。それでも胃がんは日本で男性では3番目、女性では4番目に多いがんの種類ですので、やはり検診をしっかり受けて、早期発見・治療に努めるのが肝心です。
一方で欧米での発生頻度は非常に低く、胃がんはまれながんなのです。米国での発生頻度は人口10万人に対し年間7人(2024年統計、National Cancer Institute報告)と、日本での87人(2020年統計、がん情報サービス報告)と比べると10分の1以下です。発生頻度が低いため検診のシステムがない米国では、胃がんは残念ながら手術のできないステージ4の段階で見つかることがほとんどです。抗がん剤の進歩で治療成績が改善してはいるものの、ステージ4の胃がんの5年生存率は依然7%と低く、新規の分子標的療法や免疫療法の開発や研究が進んでいます。
【アステラス製薬が開発した「ゾルベツキシマブ」】
クローディン(CLDN)とは、細胞間の密着結合(タイトジャンクション)タンパク質の一種で、そのサブタイプである「CLDN18.2」は胃がんの約30%で発現していることが報告されています。日本発の新薬、アステラス製薬の「ゾルベツキシマブ」は、そのCLDN18.2を標的として効果を発揮する新規の分子標的療法です。このような新規治療の効果を確認するためには、治療をしている医師や患者の主観や作為が入らないようにするために、大規模な“ランダム化二重盲検試験”が必要となります。治療している医師も、されている患者も、ランダムに割り当てられた治療の中に新規の薬剤が入っているか(あるいは標準治療の抗がん剤のみの治療を受けているのか)分からないまま治療を受け、効果判定がされるのです。
そのように行われた国際的大規模臨床試験、SPOTLIGHT試験には20カ国から215施設が参加。私の勤務するMDアンダーソンがんセンターも参加し、合計で565人の患者さんが登録されました。SPOTLIGHT試験では、ゾルベツキシマブとmFOLFOX6という抗がん剤療法との併用療法が、mFOLFOX6のみの標準療法と比べ、病気の進行を遅らせること、そして生存期間が延長できることが示されました。
【進行遅らせ生存期間も延長 抗がん剤と併用療法】
この試験の結果を受け、ゾルベツキシマブは2024年8月に米国食品医薬品局(FDA)から認可され、米国の胃がん治療ガイドライン(NCCNガイドライン)でもいち早く、治癒切除不能な進行・再発の胃がんを対象として、CLDN18.2の検査をすること、そして陽性症例にはゾルベツキシマブを使った治療を第一治療とすることを推奨しています。
このように、がんの集学的治療は日進月歩、さまざまな新規治療が開発されています。そして、がんは遺伝子レベルの病気です(遺伝する、という意味ではありません)。昨今の医学の進歩によって、それぞれの患者さんの、がん遺伝子の特徴に応じて治療方針を決める、プレシジョンメディシンの時代に突入しました。CLDN18.2以外でもHER2というタンパク質が増幅している胃がんにはトラスツズマブという分子標的療法を使ったり、MSI-H(dMMRとも呼ばれます)という特徴を持っている胃がんには、積極的に免疫療法(ペンブロリズマブやニボルマブなど)を使用します。
がん細胞の遺伝子レベルでの解析を進めてくれている研究者たちに頭が下がる思いであるとともに、その効果を確認するためにランダム化試験のような臨床研究に参加してくださる患者さんたちのおかげで、このようながん治療の発展が支えられているのです。
◇生駒 成彦(いこま・なるひこ)2007年、慶大医学部卒。11年に渡米し、米国ヒューストンのテキサス大医学部で外科研修。15年からMDアンダーソンがんセンターで腫瘍外科研修を履修。18年から同センターで膵(すい)・胃がんの手術を専門に、ロボット腫瘍外科プログラムディレクターとして勤務。世界的第一人者として、手術だけでなく革新的な臨床研究でも名高い。











