植田直通 もうブラジルは怖くない…白血病と闘う友に勝利を
サッカー男子のリオデジャネイロ五輪代表は開会式前日の8月4日(日本時間5日)に1次リーグ初戦のナイジェリア戦(マナウス)を戦う。DF植田直通(21=鹿島)は2011年U―17W杯メキシコ大会の準々決勝で敗れ、日本初の4強入りを阻まれた相手・ブラジルへのリベンジを誓う。
1968年メキシコ五輪以来、48年ぶりのメダル獲得を目指す上で避けて通れない相手がいる。開催国でもあるサッカー王国・ブラジル。植田にとってはU―17W杯メキシコ大会準々決勝で敗れ、史上初の4強入りへの道を閉ざされた因縁の相手でもある。「あの時、僕たちは必ずブラジルに借りを返すというのを誓った。今回の五輪で対戦できればと思います」。30日(同31日)には五輪前最後の強化試合で対戦するが、目指すのは本大会の決勝トーナメントで下すことだ。
2011年7月3日、植田はメキシコ・ケレタロのコレヒドーラ競技場のピッチに立っていた。開催国メキシコの試合ではなかったが、準々決勝4試合で最も観衆を集め、スタンドには3万123人が詰めかけた。午後6時。薄曇りの空の下、初めて間近で見たカナリア軍団はひときわ大きく見えた。「ブラジルという名前にプレッシャーを感じていた。入場の時、隣にあの黄色いユニホームの選手がいて、みんな大きかった。(G大阪のFW)アデミウソンもいました。この選手たちが、これからビッグクラブに移籍するというのを聞いていましたし。いざ試合になって、みんな少し威圧されたかなという思いがありました」。浮足立った日本は先に3点を奪われるという致命的なビハインドを背負うことになる。
前半16分、ブラジルの左CKから先制点を許した。後半3分には右サイドを突破され、中央にクロスが入る。植田はヘディングでクリアを試みた。しかし、無情にもボールには届かず。マークしていたアデミウソンに渡り、左足でシュートを決められた。「僕の判断ミス。ボールにアタックしにいったけど、(相手と)入れ替わってしまった」。同15分には追加点を許した。その後、同じリオ五輪代表のMF中島らの得点で2点を返したが、後の祭りだった。
ぬかるんだピッチに足を取られ、吉武監督が標ぼうしたパスサッカーを封じられた。試合後、泥と芝にまみれた青いユニホームとは対照的に、カナリアイエローは鮮やかだった。「僕たちは足を取られていたけど、ブラジルの選手は全然、転ばなかった。足腰が強いな、凄いなと思いました。こいつらに追いつくためにはプロになるしかないという思いが出てきました。あの負けがあったから、今、プロとしてやれていると思います」。当時、16歳の高校2年生が体感した世界との差は強烈だった。試合翌日の宿舎での最後のミーティングでは、選手一人一人が涙ながらに思いを述べた。そして、再び世界舞台でブラジルを破る。リベンジの誓いを立てた。その好機が、今、まさに近づいてきている。
ブラジルを倒さなければいけない理由がもう一つある。今年6月、当時のチームメートで主将だった新潟のDF早川史哉(22)が急性白血病を患ったとクラブから発表された。U―17W杯では3得点し、ブラジル戦でも2点目を挙げている。高校卒業後は筑波大に進学し、今季プロ入り。その矢先のことだった。植田は「また当時のチームメートがプロになったと、みんなで喜んでいた。僕自身も(早川)史哉と対戦できることを楽しみにしていたし、病気になったというのを聞いて凄くびっくりしました」。当時はチームの兄貴分的な存在で、一歩引いて全体を見守る主将だった。筑波大在籍中は同じ茨城県内ということもあり、鹿島の試合を観戦に来てくれた。交わした会話はあいさつ程度。だが、そのたびに“あの時”の絆を感じた。
だからこそ、病床の友に勝利を届けたい。「僕ができることは何でもしたい。今回、五輪という舞台があって、見てくれていると思う。画面を通じてですけど、僕たちが頑張っている姿を見せたい。ブラジルとやることができれば、史哉も一緒に戦ってもらって、あの時の借りを返すところを見せたいですね」。4月には地元・熊本が大地震で傷ついた。リオ五輪は5年前の自身を超えるための大会であるとともに、苦境に立たされた人たちへのエールを送る場でもある。 (黒野 有仁)
◆植田 直通(うえだ・なおみち)1994年(平6)10月24日、熊本県生まれの21歳。小学校時代はテコンドーで日本一。小3のとき、網津FCでサッカーを始め、緑川小、住吉中を経て大津高に進学。高さとスピードを買われ、DFに転向してレギュラーに定着。13年に鹿島に入団。11年U―17W杯では1次リーグのアルゼンチン戦で1得点。15年アジア杯でA代表初選出。1メートル86、77キロ。利き足は右。
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