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G大阪・西野朗監督が見た“メッシ頼み”の危うさ

[ 2010年6月14日 15:54 ]

ナイジェリア戦の試合前、通路で入場を待つをメッシ

 【西野朗氏のスペシャル興奮観戦記 アルゼンチン1―0ナイジェリア】大会の初戦ということもあるが、アルゼンチンは今までのイメージとかなり違っていた。もともと組織的なサッカーが特徴で、堅い守備とタレントを生かした攻撃が持ち味。同じ南米でもブラジルとはずいぶん違うサッカーだった。だが、ナイジェリア戦はスピード感もなく、テベスやイグアインら前線の選手同士のコンビネーションもあまりなく、流れるような攻撃はほとんど見られなかった。選手個々の力で勝負というより、メッシにボールを集めてメッシの個人技で突破してゴールを狙おうというイメージが強く感じられた。

 メッシもバルセロナでプレーする時とは全く違っていた。バルセロナではイニエスタやイブラヒモビッチ、シャビらがいて攻撃の起点がいくつもあるし、中盤の構成もある。最後にゴール前で決めるのはメッシでも、それまで他の選手が絡みながら組み立てている。メッシもペナルティーエリア近くでパスをもらうことが多く、それだけ決定的な仕事もできる。アルゼンチン代表では全員がメッシを頼っているために、ボールを奪ったら全員がまず彼を探す。どうしても中盤まで下がってパスを受けることが多くなり、相手ゴール前でプレーすることも少なくなる。ドリブルも長い距離になるから決定的なチャンスも少なくなる。

 これはマラドーナ監督のコンセプトで、メッシに現役時代の自分を重ねているからだろう。現役時代のマラドーナにコンビネーションで崩す発想はなかった。個が組織を超えることもあると考え、約束事を強調するより個を生かすサッカーをしていた。監督になってもそれは変わっていない。メッシはマラドーナ自身と考えていると思う。

 ナイジェリア戦に勝ったことでアルゼンチンは決勝トーナメント進出の確率が高くなり、マラドーナ監督がサッカーを修正することもないだろう。だが、決勝トーナメントに入るとこれでは苦しい。ベテランのベロンも消耗して運動量が落ち、相手も守りやすくなる。長身のFWミリトを入れて前線にターゲットをつくったりしないと打開できないと思う。そして、ナイジェリア戦はテンポが遅かったが、アップテンポになった時にどうするか。攻撃的に戦えているときはいいが、守備に回ると運動量も落ちて守勢に回ってしまう。

 ところで、ナイジェリアの失点シーンは日本代表にも大いにヒントになったはずだ。決勝点となったCKでエインセのマークに誰もついていなかった。アフリカ勢の特徴として、選手個々の局面の強さがある半面、リスタートや止まった瞬間がルーズになる。アフリカで一番組織的なナイジェリアでもこうなのだからカメルーンはもっとルーズになる。このスキを見逃さないようにすれば点は取れると思う。(G大阪監督)

 ▼西野 朗(にしの・あきら)1955年(昭30)4月7日、埼玉県浦和市(現さいたま市)生まれの55歳。浦和西―早稲田大―日立製作所。現役時代はMFで90年に引退。96年アトランタ五輪日本代表監督。ブラジルを破る「マイアミの奇跡」を起こす。98年に柏監督に就任。02年からG大阪を指揮し、今年でJ監督在任最長記録となる9年目。日本代表通算12試合1得点。1メートル82、72キロ。

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2010年6月14日のニュース