復活から9回目 基地の町に春告げる琉球競馬
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米軍機の爆音に悩む基地の町に春を告げる蹄音が響いた。日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は東京本社の梅崎晴光(63)が米軍嘉手納基地の先端に位置する沖縄県北谷町砂辺の馬場跡を訪れ、15日に当地で催された琉球競馬(ンマハラシー)を取材した。太平洋戦争が始まった1941年を最後に途絶えていた砂辺の競馬が2018年、77年ぶりに復活して9回目の開催。琉球競馬で基地の町おこしを目指す取り組みをリポートする。
平日は米軍戦闘機の爆音が耳をつんざく北谷町砂辺馬場公園(馬場跡)に心地よい蹄音が響いた。日曜の昼下がり、色彩豊かな房を飾り付けた小柄な与那国馬(沖縄在来馬)が2頭併走で脚並みの美を競う。仲間と連れだって食い入るように見つめる砂辺の子供たち。紅型(琉球染め物)姿の騎手に導かれて2頭がゴールすると、渡久地政志北谷町長ら審判役が紅白どちらかの手旗を上げて勝ち馬を告げた。砂辺では77年ぶりに復活して今年で9回目を迎えた琉球競馬。「戦前にはこの馬場の競馬を砂辺区民が楽しんだと聞いています。復元した馬の伝統文化を一緒に盛り上げていきましょう」と照屋博一砂辺区自治会長があいさつすると、200人近くの住民の間から指笛が上がった。
琉球王国時代、北谷村(戦後、分村になった嘉手納町含む)の一帯は沖縄本島屈指の馬どころ。北谷村北部から読谷村南部にかけて官営牧場が設けられ、琉球王国の馬産をリードした。「昔から名馬の産地で有名で、日本や明に馬を献上してゐる」(美術誌「国華」=1932年発行)。薩摩藩に献上された伝説の名馬「野国青毛」、「仲田青毛」も北谷産である。
畑地には馬耕(水田は牛耕)が適していたためサトウキビ畑が広がるこの地では明治以降も馬の飼育が盛んだった。1912年(大元)には1867頭(県全体3万1647頭=沖縄県統計書)。2戸に1戸は馬を飼っていた。住民にとって休日の楽しみは琉球競馬。北谷村には砂辺の他に桑江、北谷、野里、野国、屋良にも馬場が設けられ、富裕農家が飼う競走専用馬による競馬が盛んに行われた。だが、沖縄戦で環境は一変する。砂辺から上陸した米軍に村ごと接収。桑江、野里、野国、屋良の馬場は村の南北を縦断する嘉手納基地の滑走路などに転用された。砂辺地区が住民に開放されたのは1954年。砂辺馬場は接収こそ免れたが、耐えがたい爆音が待っていた。
返還地が町面積の半分にも満たない北谷。その一部は美浜アメリカンビレッジなど商業、観光地として目覚ましい経済発展を遂げたが、ここ砂辺地区は例外だ。嘉手納基地の滑走路の先端に位置するため米軍機の騒音に悩まされてきた。23年度の県統計によると最大騒音116・7デシベル。この数字は嘉手納基地周辺で最大。「近くの雷鳴」に相当するという。1日当たりの平均騒音発生数(70デシベル以上)も49・5回。住民の受忍限度を超えていた。子育て世代が他地区へ移住していく。爆音被害がもたらす過疎化。「砂辺地区のエイサーも先細りしていたし、地域を活性化するものがないかと、考えていた時に馬場の存在に気付いたのです。戦前の歴史をひもとくと、二十日正月(旧暦1月20日)は砂辺馬場で厄払いの獅子舞を行った後に競馬をやったとある。これだ!と」。競馬復活を提案した高良久美子さん(社会福祉活動家)は振り返る。
旧暦1月20日前後の日曜に開催したが、軌道に乗りかけたところでコロナ禍により4、5回大会(21、22年)は中止。7回大会(24年)から町の助成金が途切れたため地元の企業、個人から協賛金を募って運営費(4頭前後の出走馬を用意する「うみかぜホースファーム」への協力費など)に充てた。「ンマハラシーでみんなの笑顔が見たい。次の世代にもつなげたい。10回目となる来年は規模を拡大したい」。主催する砂辺ンマイー実行委・與儀俊祐委員長は「伝統の馬文化の継承と発展」を訴えた。競馬で町おこし。基地の町に春を告げる馬文化である。
◇梅崎 晴光(うめざき・はるみつ)1962年(昭37)10月4日生まれ、東京・高円寺出身の63歳。東京レース部専門委員。22年の定年後も競馬担当として記者活動を続けている。24年に絵本「おきなわ在来馬ものがたり」、25年にはJRA賞馬事文化賞&沖縄タイムス出版文化賞を受賞したノンフィクション「消えた琉球競馬」の増補改訂版を著した。
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