【追憶のフェブラリーS】泥んこ馬場の97年 “職人芸”がシンコウウインディ導いた

[ 2023年2月15日 07:00 ]

97年フェブラリーSを制した岡部幸雄とシンコウウインディ
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 1997年2月16日。この年からフェブラリーSはG1に格上げされた。1着賞金8000万円。ダート馬の目標として、大いに奮い立つ賞金額だ。この前年には高額賞金のドバイワールドカップも創設されている。JRAにとってのダート黎明の時…ではあったが、この日は午前中に大雨が降り馬場は不良。水が浮いた馬場となった。レース時には晴れていたものの、レース後ビコーペガサス(4着)に騎乗していた武豊は「雨が降って脚抜きが良ければいいと思っていたが、いくら何でも降りすぎ。道中ずっとノメっていた」と嘆いたほどだった。

 1番人気は4連勝中のストーンステッパー。マイルでの勝利もあったが、明確にスプリント気質。2番人気はバトルライン。重賞勝ちはなかったが、ケンタッキーダービー馬の半弟という血統で評価が高かった。

 さてレースは逃げ馬が定まらない。地方馬エフテーサッチには行き切れる脚がなく、アイオーユーとバトルラインの併走。ストーンステッパーはその直後で好位先行。3コーナーでバトルラインが脚力の違いで先頭に立つと、ストーンが早めにつかまえにいく。やや距離不安があるタイプで引きつけたいところだったが、熊沢は「ペースが遅くて、あれ以上は仕掛けを待てなかった」と語る。

 1000メートル通過は59秒5。極端に遅い数字ではないが、不良馬場で上位人気バトルラインの早め先頭。かつ自身の騎乗馬もそれほどための利くタイプではない。直線早め先頭の策は当然の正攻法と言えよう。馬場もあって外から伸びてくる馬はいない。ほぼストーンステッパーの勝勢が築かれた…かに思われた。

 バトルラインとストーンステッパーの攻防は、次々に外から捲って行く形。誰もが外の攻防に目を奪われるうち、内をスルスルと伸びてきたのがシンコウウインディだ。

 まさに鞍上・岡部幸雄の職人芸。道中はストーンステッパーの直後。レース後に「泥を少々かぶっても平気な前向きな馬だが、前の馬の直後につけると泥をかぶりにくくなるから」との説明。馬も顔に泥が飛んでくるとひるむが、前を走る馬の直後なら顔には飛んでこない。水の浮くような泥んこ馬場への対応もお手の物だったマイスター岡部によりスムーズな追走。かつ岡部シンコウウインディはストーンステッパーが仕掛けた時には付き合わず、ひと呼吸置いて進路を内へ。アイオーユーを軽くパスすると、ストーンステッパーの内をすくって伸び勝った。

 「前に馬がいるとかみつきに行くような気性の激しい馬だが、スムーズに走ってくれた」と岡部。実際、前年の条件戦(8月の館山特別)では、隣の馬にかみつきに行って勝勢を失い2着になったこともある馬。陣営は年明けの平安Sからブリンカーを着用。レースに集中することができていた。

 シンコウウインディはいわゆる「マル市」(市場購買馬)で、取引価格は890万円。1着賞金8000万円に、市場取引馬奨励賞が850万円。その他合わせると自身の取引価格の10倍以上を1レースの勝利でたたき出し、「JRA初代ダート王」に輝いた。

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2023年2月15日のニュース