トライアルの“常識”破った藤沢氏の采配

[ 2022年4月22日 05:30 ]

95年フローラS(当時4歳牝馬特別)を制したサイレントハピネス(左端)
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 【競馬人生劇場・平松さとし】今週末、フローラS(G2)が行われる。3歳牝馬限定の芝2000メートル。1、2着馬にオークス(G1)への出走権が与えられるトライアルレースだ。

 今から27年前の1995年。当時は4歳牝馬特別と呼ばれていたこの競走を制したのがサイレントハピネスだった。同馬を管理していたのは後の1500勝トレーナー・藤沢和雄調教師。この2月に定年により引退した伯楽は、このレースの直後のインタビューで驚きの発言をした。

 オークスでは当然、有力と考えられる桜花賞(G1)組に対し、「どのくらい通用すると思うか?」と聞かれた藤沢師は言った。

 「次走がオークスとは言っていませんよ」

 トライアルレースを勝利したのだから当然、本番に駒を進めると思っていた報道陣は、この発言に目を丸くした。当時まだ44歳だった若き日の名調教師は続けて言った。

 「今日は久々(約4カ月半ぶり)の出走で、放牧明けにもかかわらず前走比10キロ減の馬体重でした」。成長期にマイナス体重で、それでも勝つ競馬をしたことによる次走の上がり目に疑問を持ったのだ。「G1となれば今回よりさらに良い状態にしないといけないわけですからね」と言うと、さらに続けた。「そもそもトライアルを勝ったから自動的に本番という考え方は違うと思います」

 結果、実際にサイレントハピネスは「体調が整わない」(藤沢師)とオークスを回避した。

 藤沢師がこのような采配を振ったのは、この一例だけではなかった。2001年に秋華賞(G1)トライアルのローズS(G2)を勝ったダイヤモンドビコーもまた本番には使わなかった。当時ローズSで破ったローズバドが秋華賞で2着に好走したことで「使っていれば…」という声もささやかれたが、藤沢師はサラリと言った。

 「もっと広い視野で考えなければいけません」

 結果、翌年、ダイヤモンドビコーはJRA賞最優秀4歳以上牝馬に選定される。“1勝より一生”を考えた伯楽の下で開花したのだ。(フリーライター)

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2022年4月22日のニュース