【安田記念】アーモンド100点!恐ろしいほどに進化「九尾の狐」の域

[ 2020年6月2日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

<安田記念>一戦ごとに成長。筋肉量が増え「九尾の狐」の域に達したアーモンドアイ
Photo By 代表撮影

 名牝は「九尾の狐(きつね)」のように9度変身する。鈴木康弘元調教師(76)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第70回安田記念(7日、東京)では史上最多のJRA・G1・8勝を懸けて出走するアーモンドアイに唯一の満点を付けた。達眼が捉えたのは9本の尾を持った狐の霊獣を想起させる進化ぶり。有力候補のボディーを妖怪、もののけ、予言獣などになぞらえながら解説する。

 コロナ禍の中、豊作や疫病の流行など今後の吉凶を人々に告げる「予言獣」と呼ばれる妖怪が話題になっています。1番人気は江戸後期、肥後(熊本県)の海に出現したと伝えられるアマビエ。著名人による写し絵とメッセージでコロナ退散を願ったスポニチさんの連載「令和の瓦版」の影響もあって全国区になりました。コレラ流行を予言したのが人魚の妖怪「神社姫」。肥前(長崎、佐賀県)の海に現れたのはアマビエの30年ほど前だったとか。

 吉兆を示す霊獣として中国の史書に登場するのが「九尾の狐」。太平の世が訪れると、姿を見せる狐の妖怪です。最初は尾が1本ですが、長い月日を経て妖力が増すたびに1本ずつ増えていく。二尾の狐、三尾の狐…と姿を変え、最後は9本の尾を持つ「九尾の狐」に進化した。霊獣の完成形です。日本では美女に化けて人を惑わす女狐として語り継がれていますが、本来は天界から遣わされた予言獣の女帝。その姿はターフの女帝を想起させます。

 ヴィクトリアマイルから中2週、デビュー以来最短のレース間隔で臨むアーモンドアイ。相変わらず毛ヅヤは美しい輝きを放っています。立ち姿もいつも通り気負いがない。でも、目つきが変わってきました。アーモンド形の愛くるしい目がキツネ目になったとまでは言いませんが、鋭くとがっている。目は心の窓。気が入った証です。

 体つきは進化しています。通算9勝、一つ勝つごとに賞金やタイトルとともに筋肉パワーも増やしてきた。筋肉の量もさることながら、質が着実に上がっているのです。尾を1本ずつ増やして9度変身した「九尾の狐」のような進化。気がつけばマイラーの見本のような筋肉ウーマンになっていました。牝馬3冠馬に輝いた直後にジャパンCも制した女傑ですが、ここまで強じんな筋力がつけば2400メートル以上の距離はちょっと戦いづらくなってくる。マイル戦には必要でも長い所を走るには邪魔になるほど筋肉パワーがアップしたからです。「九尾の狐」が霊獣の完成形であるように、9度の勝利で変わり続けた女王にとっては、マイラーの姿が完成形なのかもしれません。

 距離を考えれば、宝塚記念より安田記念。体のどこにも疲れが見られない以上、中2週でもここを選んで正解です。目つきがきつくなった馬は出遅れにご用心。死角があるとすれば、ゲートだけです。互角に発馬すれば伝説にも登場したことがない幻の予言獣「十尾の狐」になる。コロナ禍で無観客開催が続く競馬界に明るい未来を予言する女帝です。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の76歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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2020年6月2日のニュース