【凱旋門賞】ロンシャンのキセキ!角居師「そう遠くない」

[ 2019年10月1日 05:30 ]

乗峰栄一氏(右)と対談する角居調教師 (撮影・平嶋 理子)
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 日本競馬の悲願達成は近い――。キセキ(牡5=角居)、フィエールマン(牡4=手塚)、ブラストワンピース(牡4=大竹)が出走する凱旋門賞(6日、パリロンシャン)が、いよいよ今週末と迫った。キセキを管理する角居勝彦師(55)が作家の乗峯栄一氏(64)と対談。92年から19年間、スポニチ大阪版競馬面で予想コラムを連載した乗峯氏は師とは長い付き合いだ。日本競馬に革命を起こした師は21年2月で勇退する意向を明らかにしており、世界最高峰の一戦に挑むのも今年を含めて、あと2回。挑戦することの難しさ、今年の感触などを聞いた。

 乗峯氏(以下乗峯) いよいよ凱旋門賞ウイークです。キセキの状態はどうですか?
 角居師(以下角居) 順調ですよ。フォワ賞の後も元気ですし、脚元も問題ありません。

 乗峯 フォワ賞は3着でした。
 角居 ハナを切って、いい目標になってしまいました。結果は仕方ないですね。日本の芝はゴルフのグリーンみたいなところ。でもフランスはそうじゃないというのを競馬で教えなければいけなかった。そういう意味では、いい試走ができたと思います。

 乗峯 キセキは最後ちょっと差される競馬が続いています。脚質は凱旋門賞に向きそうですか?
 角居 凱旋門賞は先行しないと駄目というのはありますね。前につけられるのは大事だと思うし、それを抑え込んで、しまいでどれだけ伸びるか。凱旋門賞の週までは内柵から3~4頭分くらい、仮柵がついている。そのエリアの中の好位につけたい。好位の内が大前提。その外は馬場が一気にボコボコになっているので失速してしまいます。そのポジションを押して取って、かつ我慢が利く馬をつくらなければいけません。

 乗峯 先生にとって凱旋門賞とは?
 角居 世界のトップで一番チャンスがあるレースという感じ。他のキングジョージ(キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)やブリーダーズC(米国)は、まだまだかなと。馬場的に難しい感じがするし2クラスくらい上の工夫が必要でしょう。

 乗峯 凱旋門賞は勝つチャンスは近い?
 角居 近いと思います。ディアドラもナッソーSを勝ったように、日本馬は世界のあちこちでG1を勝っています。要は向こうの馬場で走れる馬につくれるかどうか。そう遠くない感じはしています。

 乗峯 凱旋門賞挑戦はヴィクトワールピサ(※(1))以来2度目。経験は生きていますか?
 角居 (現地の調教場は)トレセンとは施設が全く違います。今までは現地の方から調教のやり方を聞いて、その通りにやっていたので自分の調教という感じがしなかった。何年も向こうの調教場で乗ったり、調教師や研修に行ったスタッフから調教の負荷のかかり具合、馬場状態などを聞いたりして何となくイメージが湧くようになってきました。

 乗峯 シャンティイ調教場とは、どんなところなんですか?  角居 競馬場の周りにエーグル、リヨン、そして小林智先生(※(2))のいるラモルレイと調教場が3カ所あります。野っ原や森の中など自然を利用した4000メートルの坂路もあります。森を切り開いて調教場にしている感じ。迷子になるんですよね。勝手に入ると他の調教師さんにも怒られる(笑い)。馬場の使用基準みたいなものがあるようですが誰も教えてくれない…。ただただ怒られます(笑い)。ダートも芝もあるし、選択肢は山ほど。ハロン棒はなく、どこから乗り始めてもいい。調教師が自ら考えて組み立てて調教しなさいという感じ。逆にベースになるものがなくて大変ですが。

 乗峯 一緒に行く予定だったロジャーバローズ(※(3))は残念なことになりました。「一緒に行けるのはいい」と話していましたが…。
 角居 ロジャーは皆さんが獲りたいレース(ダービー)を獲って種牡馬になれましたからね。連れていくのは1頭になりましたけど、向こうにモンドシャルナという元々はうちの厩舎にいた馬がいて、オーナーさん(山本英俊氏)に聞いたら「帯同馬として使ってくれていいですよ」と了解を頂けました。一緒に調教できて本当にありがたいですね。

 乗峯 スミヨン騎手(※(4))への期待は大きいですか?  角居 エピファネイアで(14年)ジャパンCを勝ってくれたように、お世話になっていますから。他にもたくさん、いいジョッキーはいますが…。

 乗峯 レースに向けての抱負をお願いします。  角居 エネイブルは強敵ですが日本でもトップに近い3頭で挑戦できるのはうれしいですね。

 乗峯 3頭で組みますか?(笑い)  角居 それは…(苦笑い)。こっそり「前に行くの?」「後ろから行くの?」とか聞くかもしれませんが(笑い)。

 ※(1) 10年に日本の3歳馬として初めて凱旋門賞に挑戦。前哨戦のニエル賞(4着)に続き武豊騎乗で後方から追い込んだが7着に敗れた。

 ※(2) 08年に日本人として初めてフランスの調教師試験に合格し、シャンティイで開業している45歳のトレーナー。6月に通算100勝を達成。仏遠征した日本馬の受け入れ先としても知られている。

 ※(3) ダービー優勝後、放牧を挟み栗東で調教を重ねていたが右前浅屈腱炎を発症。9カ月以上の休養を要する見込みと診断され8月6日に引退、種牡馬入りが発表された。

 ※(4) 03年ダラカニ、08年ザルカヴァで凱旋門賞を2勝しているがオルフェーヴルとのコンビでは2年連続(12、13年)で2着に惜敗した。

 ◆角居 勝彦(すみい・かつひこ)1964年(昭39)3月28日生まれ、石川県出身の55歳。北海道グランド牧場から競馬学校を経てトレセンへ。中尾謙太郎、松田国英厩舎で調教助手。01年厩舎開業。04年菊花賞(デルタブルース)G1初制覇。06年メルボルンC(デルタブルース)、07年ダービー(ウオッカ)、11年ドバイワールドC(ヴィクトワールピサ)など国内外のG1レースを数多く制している。家業の天理教の仕事を継ぐため、21年2月をもって勇退する意向。引退した競走馬の支援活動や障がい者乗馬の普及にも尽力。JRA通算726勝(うち重賞81勝、9月29日現在)。

 ◆乗峯 栄一(のりみね・えいいち)1955年(昭30)1月3日生まれ、岡山県出身の64歳。早大卒。作家。92年、小説新潮新人賞佳作受賞。98年「天神斎一門の反撃」(単行本化の際に「なにわ忠臣蔵伝説」と改題)で朝日新人文学賞受賞。92年から11年まで本紙大阪版で「乗峯栄一の賭け」を連載。96年に春のG1複勝ころがしで63万100円をゲット(ダービーで全額を失う)。

 【ゴール前内へと広がる「オープンストレッチ」】対談中で角居師が触れている「仮柵」とは昨年4月にパリロンシャン競馬場が新装なった際に新たに設けられた「オープンストレッチ」のこと。ゴール前約450メートル地点から約6メートル、内ラチをさらに内へと広げ、インコースに新たな走路を確保する。強引に馬群をバラけさせて進路がなくなることを防ぎ、全馬にチャンスを与えることが狙い。昨年はレース5日前に、この新走路を凱旋門賞で使用しないことが発表されたが、今年は今のところ使用する方針。キセキはこのスペースを生かし切りたい。

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