飛野牧場の奇跡!執念が生んだダービー馬ロジャーバローズ

[ 2019年9月10日 05:30 ]

飛野牧場の厩舎
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 小さな牧場から生まれた夢のダービー馬――。令和最初のダービーを制したロジャーバローズの生まれ故郷である飛野(とびの)牧場は北海道新ひだか町静内で50年以上営まれる個人経営の牧場。従業員わずか6人の小牧場からどのようにして世代の頂点に立つ馬が誕生したのか。飛野正昭代表(75)がこだわった名牝ジェンティルドンナの“8分の7”血統が起こした奇跡の裏側に迫った。

 ロジャーバローズの生まれ故郷は新ひだか町静内ののどかな自然の中にある。「20代から牧場をやって、石の上にも50年ですよ(笑い)。夢の夢だったダービーを勝てて本当にうれしかった」。飛野代表はダービー馬の母となったリトルブックを優しいまなざしで見つめながら言葉を紡ぐ。生産馬ではネームヴァリュー(03年帝王賞)以来のG1制覇。JRAに限れば初のG1タイトルが国内最高峰のレース日本ダービーだった。

 飛野代表が「貫禄、馬の雰囲気が全然違う。ダービー馬の母なんだから」と評する偉大な母リトルブックに“出会った”のは12年。英国ディセンバーセールのカタログを見て一目ぼれしたのが全ての始まりだった。牝馬3冠を制したジェンティルドンナの母ドナブリーニの半妹という超良血。しかも、ただの半妹ではなく、リトルブックとドナブリーニの父は共にダンジグ産駒。「この馬からディープインパクトの産駒が生まれれば、ジェンティルドンナと“8分の7”まで同じ血統になる」と夢は膨らんだ。未勝利のまま現役を終えた馬だったが、「100点満点の馬は高くて買えない。競走馬としては走らなかったようだけど、写真の姿が良かったから勝負するしかないと思った」と購入を決断。関係者に代理購買を依頼し、23万ギニー(約3300万円)で競り落とした。

 来日後は不受胎などで2年間、産駒が得られず。それでも、「どれだけ借金してでもずっとディープをつけてきた」。16年1月24日、執念が実ってようやく誕生した初のディープ産駒がロジャーバローズだった。同年のセレクトセール当歳セリに上場され、7800万円(税抜き)で猪熊広次氏が落札。「素晴らしいオーナーに落札いただいて、ノーザンファームで育成していただけたことも大きかった」。順調に成長した愛馬は西の名門・角居厩舎へ。ダービーを勝つ名馬にまで成長した。「当日は涙も枯れました。ゴールした瞬間は角度的に差されたと思ったけど(笑い)。浜中騎手、厩舎のスタッフの皆さんにも本当に感謝しています」と当時を思い起こした。

 凱旋門賞(10月6日、パリロンシャン)を目指したロジャーバローズだったが、右前浅屈腱炎を発症し現役を引退。新ひだか町のアロースタッドで種牡馬入りした。「令和元年にダービーレコードで勝ってくれた馬。種牡馬としても何かやってくれるのでは。自分のどの繁殖牝馬に種付けするか頭を悩ませていますよ」。飛野代表の視線は既に前を向いている。当歳と1歳の全妹は共にセリには出さず自ら所有する予定。「当時のロジャーバローズも特別なオーラがあったけど、当歳の妹はお尻の線がよく似ています。1歳の方は毛色がディープそっくり。またG1の舞台で皆さんにお会いできれば」と期待を寄せる。「どこかで満足したいけど、夢はキリがない。50年以上やっていても分からないこともある。馬を育てるのは簡単ではないですよ」。ダービー制覇というホースマン最高の栄誉を手にしても、飛野牧場の挑戦はこれからも続く。

 【牧草の質に強いこだわり!】赤と白を基調としたオシャレな外装、厩舎内のシャンデリアの他にも、牧場内には飛野代表のさまざまなこだわりがある。“馬にとってはいい餌、いい水、いい空気が大切”が持論。厩舎の風通し、牧草の質などには強くこだわり、1頭あたりの放牧地の面積が狭くならないように繁殖牝馬の頭数をしぼっている。ウオーキングマシンでのトレーニング中には“リラックス効果”を狙ってクラシック音楽を馬に聴かせる。「ダービー馬が簡単にポンッと生まれるわけではないですから」と同代表。今年のフィリーズRを制したノーワンも飛野牧場で生産された1頭だ。

 【金の卵「パープルの2019」】若い頃から海外の競馬やセリの見学に出向き、セクレタリアト、ニジンスキーなど世界の名馬をその目で見てきた飛野代表が大きな期待を寄せる生産馬が「パープルの2019」(牡、父キングカメハメハ)だ。7月のセレクトセール当歳セリで、廣崎利洋HDに5100万円(税抜き)で落札された。「この馬もクラシック路線に行ってくれると思う。父がキングカメハメハ、母父がガリレオ。いい血統です」と活躍を楽しみにしていた。

 【新ひだか町12年ぶり】新ひだか町の牧場の生産馬がダービーを勝ったのは07年ウオッカ以来12年ぶりの快挙。町役場にはダービー制覇を祝う横断幕も掲げられた。日本の競馬生産界をリードする“巨艦”ノーザンファーム(安平町)の生産馬が15年からダービー4連覇、さらにダービー前まで大阪杯からオークスにかけてJRAのG1・7連勝中だった。

 ◆飛野牧場 北海道新ひだか町静内真歌にある競走馬生産牧場。1950(昭25)年に創業。主な生産馬にはネームヴァリュー、ノーワンの他にスマートロビン(12年目黒記念)、ブルーベイブリッジ(90年テレビ東京賞3歳牝馬S)、オオミシャダイ(82年北九州記念)などがいる。生産馬がダービーに出走したのはロジャーバローズが初めてだった。

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