「豊臣兄弟」謎の“秀長の正妻”一気に研究進む「大河の影響」役名「慶」は一択 時代考証&CP語る裏側
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俳優の仲野太賀(33)が主演を務めるNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」(日曜後8・00)は17日、第19回「過去からの刺客」が放送され、主人公・羽柴小一郎の正妻・慶(ちか)(吉岡里帆)に息子がいることが判明。小一郎が父になる姿が描かれた。これまでほぼ知られていなかった秀長の正妻だが、近年研究が進み、その実像の輪郭が見えてきたという。時代考証を担当する黒田基樹氏と柴裕之氏、制作統括の松川博敬チーフ・プロデューサー(CP)に作劇やキャラクター造形の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
NHK連続テレビ小説「おちょやん」などの八津弘幸氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ通算65作目。“天下一の補佐役”豊臣秀長を主人公に、豊臣兄弟の絆と奇跡の下克上を描く。兄・豊臣秀吉役は俳優の池松壮亮が演じる。
慶は第13回「疑惑の花嫁」(4月5日)で本格初登場。寧々(浜辺美波)は、慶が人目を避けて男と会う姿を目撃しており、男を惑わす“女狐”の噂も。銭で男を買い漁っているという。
慶の左肩には傷あともあった。前田利家(大東駿介)によると、慶の亡き前夫は斎藤家に仕える重臣。しかし「稲葉山城(のちの岐阜城)の戦い」(永禄10年・1567年)で討死。慶にとって織田は仇だった。しかも、その敗因は慶の父・安藤守就(田中哲司)らが織田に寝返ったこと。守就を調略した小一郎は亡き夫の仇だった。
そして、この日の第19回。慶と亡き夫・堀池頼広の間に一人息子・与一郎(高木波瑠)がいること、慶の左肩の傷は義父・堀池頼昌(奥田瑛二)に斬られたものと明らかになった。小一郎が説得し、与一郎を養子に。慶と頼昌、義母・絹(麻生祐未)も和解。小一郎と慶は“真の夫婦”となった。
秀長の正妻の本名はいまだ分かっておらず、黒田氏も法名(法号)から「慈雲院殿」と呼ぶしかないとしている。
柴氏「秀長の妻については、江戸時代以来、大和国を拝領した秀長が“お藤さん”という奈良の尼を妻にした、という程度のことしか語られてきませんでした。逆にいえば、そのぐらい何も分かっていない状況だったわけです。今回、本格的に描かれるということで、秀長の妻にはどういう人がいたのか、というところからまず検討を始めました。その結果、正妻の慈雲院殿(じうんいんでん)と別妻の摂取院光秀(せっしゅいんこうしゅう)という2人がいたことをつかんだ上で、それぞれがどういう人なのかを検討しました。結局、奈良の尼の話は、摂取院光秀が秀長の死後に出家した、というだけのことでした」
黒田氏の著書「羽柴秀吉とその一族 秀吉の出自から秀長の家族まで」(角川選書)の刊行時点(2025年5月)で慈雲院殿の出自と忌日は明確に分かっていなかったが、同年10月に刊行された戦国史研究家・和田裕弘氏の著書「豊臣秀長 『天下人の賢弟』の実像」(中公新書)で明らかに。秀長の菩提寺・大徳寺(京都市北区)の塔頭寺院・大光院にある、一般非公開の過去帳を根拠に、織田家家臣・神戸秀好の娘としている。
柴氏「なので、秀長の妻に関しては、この2年で一気に研究が進んだということになります」
黒田氏「史料に残る慈雲院殿の動向は年表にまとめましたが、人柄や容姿などは後世の創作にも出てきません。そもそも歴史上の人物の人柄はほとんど分からないものですが、慈雲院殿に関しては江戸時代にその存在が忘れられているので」
よって「慶が安藤守就の娘」など、今作の設定や人物像はほぼドラマオリジナルだ。
黒田氏「(和田氏の著書で)慈雲院殿の本当の父親が分かったのは『豊臣兄弟!』の設定(慶が安藤守就の娘)が決まった後でしたから。こういうふうに研究が進んでいくので、やはり大河ドラマの影響は大きいなと実感しました。先の脚本を拝読していて、慶が寧々よりしっかり者のキャラクターになっているのが面白いと思います」
松川CPは「今回、黒田先生と柴先生からお話をうかがって、秀長と慈雲院殿の間に与一郎という嫡男がいたことを初めて知り、それに基づいてストーリーを練りました(与一郎が前夫との子、はドラマオリジナルの設定)。クランクイン(25年6月)してから、実は娘がいたことも分かって、それも反映させています」と明かし「藤吉郎と寧々の結婚(第7回・2月22日)も、従来の『永禄4年(1561年)説』(藤吉郎は足軽)ではなく、最新研究に基づいた『永禄8年(1565年)説』(藤吉郎は侍大将)を採用しました。先生のお二人には、視聴者の皆さんもお気づきでないかもしれない、目立たなくても大事な設計を裏でサポートしていただいています」と感謝した。
役名の「慶」は、法名「慈雲院殿芳室(ほうしつ)紹慶(しょうけい)大禅定尼(だいぜんじょうに)」にちなむ。命名した松川CPは「慶の字が気に入りまして。『ちか』という読み方があったので、先生のお二人に『慶(ちか)』はいかがですか?と提案させていただいたところ、『いいですね』と(笑)。僕としては他の候補もなく、迷うことなく決まりました」と“一択”だったと振り返った。
黒田氏と柴氏は約1年半という短期間で「羽柴秀長文書集」(東京堂出版)を25年11月に刊行。ドラマの屋台骨を支えている。
◇黒田 基樹 1965年(昭和40年)東京生まれ。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。博士(日本史学)。専門は日本中世史。駿河台大学教授。主な著書に「羽柴秀長の生涯」(平凡社新書)「秀吉を天下人にした男 羽柴秀長」(講談社現代新書)「羽柴秀吉とその一族」(角川選書)などがある。
◇柴 裕之 1973年(昭和48年)東京生まれ。東洋大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。専門は日本中世史。東洋大学文学部非常勤講師。主な著書に「織田信長 戦国時代の『正義』を貫く」(平凡社)「秀吉と秀長『豊臣兄弟』の天下一統」(NHK出版)「羽柴秀長 秀吉の天下を支えた弟」(KADOKAWA)などがある。
【参考文献】「NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟! 豊臣秀長とその時代」(NHK出版)
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