当代三木助の新演出「芝浜」を堪能した一夜

[ 2026年3月17日 17:00 ]

「芝浜」を熱演した桂三木助
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】かつて「芝浜の三木助」と言われた時代があった。1950年代のこと。八代目桂文楽の「明烏」や五代目古今亭志ん生の「火焔太鼓」と同じように、三代目桂三木助の存命中、他の落語家が「芝浜」を高座にかけるのを遠慮していたほどの十八番ネタだ。

 そんな「芝浜」を孫の五代目三木助が披露したのは3月15日、東京・千代田区の神田連雀亭。「修練」と題した会だった。若手の落語家や講談師専用の定席として知られる40席ほどの小さな寄席だが、昼席がハネた後を利用しての夜会だ。

 まず金原亭駒平が「辰巳の辻占」でご機嫌を伺い、続く金原亭杏寿が「長屋の花見」を明るく披露。ハツラツとした二つ目2人の明るい高座に客席から温かい拍手が送られた。

 短い休憩を挟んで登壇した三木助はマクラなしでいきなり噺に入った。“お家芸”の「芝浜」だが、そこは独演会で映像を駆使したり、人気漫画「カイジ」を落語に仕立てたりと、新規ファンの掘り起こしにも精力的な気鋭。あちこちに工夫を散りばめて“当代流の芝浜”で魅了した。

 天秤棒一本で行商をしている魚屋の勝は腕はいいが、大の飲んだくれ。もう20日も仕事をさぼっている。今朝も女房に尻を叩かれ、いやいやながら芝の浜に出掛けたが、女房がいっとき(2時間)も早く起こしたものだからぼやくことしきり。時間潰しに煙管を吹かすが、この2服目が粋。両手のひらで囲った火種に煙管を近づける演出が細やかで新鮮だ。

 物語は、浜で拾った汚い革財布の中に42両もの大金が入っていたことから急展開。すっかり心が大きくなった勝は家に戻って一眠りした後、仲間を集めて酒と肴(さかな)を大盤振る舞い。この“一眠り”が効いている。大金を懐に大急ぎで家に戻ってもまだ昼前のはず。大宴会の前に一度寝かせたところが時系列的にもしっくりきた。

 「(くすねた)10両で首が飛ぶ」と言われた時代。酔って眠り込んだのを幸いに、大家さんに相談の上、この金を役所に届け出て、女房は夢の中の出来事にしてしまう…。心を鬼にしてのウソ。女房の苦しげな表情がたまらない。

 「夢だったの?」と半信半疑ながらあきらめて一念発起した勝は酒を絶って仕事に精を出し店を構えるまでになる。使用人が複数人いる設定は初めて触れた。落とし主が現れずに役所から金が払い下げられ、そして迎えた大みそか。クライマックスが泣かせる。

 店を閉めて後片付けをしていた使用人に“順番に風呂に行ってこい”という勝に対して女房は“みんなまとめて行っといで。後は私がやっておくから”ときっぱり。体のいい所払いだ。夫婦2人きりになったところで女房が真相を明かして謝るが、夫をだまし続けてきた心の痛みが色濃くにじみ出ていて引きずり込まれた。

 1961年1月16日に58歳の若さで三代目が亡くなると、ぽつぽつ取り上げる噺家が出てきて、そんな中から立川談志や古今亭志ん朝らの名演が生まれてきた。当代版は芝の浜での情景描写をたっぷり演じた祖父のソレとは違い、夫婦間の愛情に重きを置いて描いた談志版の要素が強いかもしれない。いずれにしても進行形の見事な「芝浜」だ。ますます磨きをかけてほしい。

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