「19番目のカルテ」美術デザイナー語る「光」の仕掛け あえて光源を限定「差し込む光を印象的に」

[ 2025年8月31日 13:00 ]

光の演出が印象的なTBS日曜劇場「19番目のカルテ」(C)TBSスパークル/TBS(撮影:加藤春日)
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 嵐の松本潤(42)主演のTBS日曜劇場「19番目のカルテ」(日曜後9・00)の第7話がきょう31日に放送される。診察室や休憩室、そして患者たちの暮らしを映し出す各話の空間まで、視覚からも物語を紡ぐ美術の力が随所に息づく同作。その世界観の根幹を担うのが、美術デザイナー・安藤帆南氏だ。登場人物の生きざまをも描き出すような空間づくりは、どのようにして生まれたのか。

 同作は医療における19番目の新領域である総合診療科を舞台にしたヒューマン医療エンターテインメントで、原作は富士屋カツヒト氏の連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」(ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は「コウノドリ」シリーズの坪田文氏が手掛ける。松本が演じる魚虎総合病院の総合診療医・徳重晃が「問診」を通して病気を診るだけでなく、患者の心や生活背景などから「最善」を見つけ出し、生き方そのものにも手を差し伸べていくというストーリー。

 本作のメインセットは、主人公の総合診療医・徳重晃(松本)の診察室と、医師たちが集う休憩室の2つ。診察室については、演出を担当する青山貴洋氏からの「総合診療科が旧館の隅っこにあるような雰囲気にしてほしい」というリクエストをもとに設計していった。

 総合診療科の監修を担当した医師・生坂政臣氏の存在も、診察室づくりの参考になったという。生坂氏が実際に使用していた診察室の写真を見せてもらい、相談しながら「リアルな現場の雰囲気を探しながらセットを組み立てていった」と安藤氏は話す。

 当初、生坂氏のエピソードをもとに病室をベースにする案も出ていたが、ただの四角い部屋では単調になると感じたという。そこで安藤氏は「もともと食堂や休憩スペースとして使われていたような場所を診察室として転用することにした」という体(てい)の設定で、空間に広がりを持たせた。

 診察室の設計において、特に重要視されたのが「光」の扱いだ。演出の「このドラマの象徴でもある“光”を印象的に撮りたい」という意向を受け、部屋の構造自体を斜めに設計し、大きな窓を配置した。自然光がルーズに差し込むよう計算されており、「サイズ感が不安だったけれど、思い切って造ってよかった」と安藤氏は振り返る。

 一般的なセットでは多方向から光を当てて全体を明るく見せるが、本作ではあえて光源を限定。大きな窓は一面のみに、高窓は別の壁面に配して「一方向から差し込む光が印象的に見えるよう工夫した」という。第1話で徳重と新米医師の滝野みずき(小芝風花)が夕景を見つめるシーンでも、この設計が効果的に生かされた。

 さらに、空間に生活感を与えるために施された“汚し”も注目すべきポイントだ。「やり過ぎるとただ汚く見えるし、やらなさ過ぎるとリアリティがなくなる」と安藤氏。油汚れや経年劣化を意識した“意味のある汚し”を施し、絶妙な“古さ”を表現していったという。演出からの印象的なリクエストについて「窓の光とリアルな汚しのバランスが難しかった」とも語っている。

 原作漫画の世界観についても、「参考にはしましたが、ドラマとしての表現を優先しました」としつつ、原作者・富士屋カツヒト氏が「背景の情報量がすごい」と評価したことには「それが伝わったのはとてもうれしい」と笑顔を見せた。「本がいっぱい並んでいたり、ごちゃごちゃした感じは、総合診療科という設定から意識していた部分でした」と、細部に至るまでの工夫を明かしている。

 休憩室の美術は、台本にあった「変に内装や設備が整っている部屋。健康のためのトレーニングマシンなどもある」という福利厚生にお金をかけている病院という裏設定をヒントに、「おしゃれオフィスのような謎の空間」を目指してデザインされた。

 「思い切って色を多用し、タイルや家具で絵替わりするように工夫した」という空間には、デスク付きのフィットネスバイクも配置された。演出との雑談の中から生まれたアイデアだったが、運動しながら作業もできる設備として採用された。

 実際に撮影では、清水尋也が演じる内科医の鹿山慶太がこのフィットネスバイクを使うシーンも収められており、「セットがしっかり活用されていてうれしかった」と安藤氏は話す。

 診察室に関しては、監修の生坂氏から「診察室に私物を置かないほうがいい」というアドバイスもあり「遊び」は控えめに。そのぶん患者側の空間演出に注力したという。

 各話に登場する患者の家や職場も、設定に即してリアルに表現されている。第1話に登場した患者、黒岩百々(仲里依紗)の部屋は「30代でデザイン系の仕事なら、こういう色や小物が好きそう」と細部まで工夫。もう1人の患者、横吹順一(六平直政)が経営する居酒屋や、第2話で登場した岡崎拓(杉田雷麟)・咲(黒川晏慈)兄弟の家なども、それぞれの背景が伝わるように作り込まれている。

 「言葉で真実を探るのが徳重先生なら、私たち美術担当は空間のビジュアルで彼らの人生を伝えるのが仕事」と語る安藤氏。少しの登場でも印象を残すよう、撮影先の物件の良さを引き出し、飾り込んでいるという。

 本作のマスコットキャラクター「うおとらくん」もセットの至るところに潜んでいる。診察室の徳重のデスクにあるペン立てには、安藤氏が紙粘土で自作したフィギュアが。「寄りで映ると手作り感があるけれど、遠目だとちょうど良く見えるように色を塗って仕上げました」と明かす。

 実はこの「うおとらくん」、表情のバリエーションが「ノーマル」「びっくり」「まったり」「やる気」の4種類あり、それぞれ異なる場所に登場しているという。例えば、お菓子コーナーやロビー、北野栄吉院長(生瀬勝久)の部屋にもさりげなく姿を見せるなど、まるでかくれんぼのような遊び心に満ちている。「どことなく院長先生に似ている気がします」と笑う安藤氏。画面のどこかに潜んでいるかもしれない小さな仲間たち。配信で繰り返し楽しむ際には、「うおとらくん」の表情にも目を向けてみると、作品の味わいがさらに広がるかもしれない。

 視覚的な“遊び”と“説得力”を両立した美術セット。それは『19番目のカルテ』の空気感を下支えする、もう1つの語り部だ。

 「患者さんの生活環境を描写するため物量も多く、飾っては壊しての繰り返し。それでも、こだわって良かったと心から思っています」。そう語る安藤氏の情熱は、作品世界に確かな深みを与えている。

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