【売野雅勇 我が道28】欠かせない相棒コーヒーとタバコ それに「シソーラス」

[ 2025年8月29日 07:00 ]

手書きで原稿を書いていた時代の書斎の様子(本人提供)
Photo By 提供写真

 歌詞は作詞家にとっての作品。初期の頃は青いステッドラーのホルダーに4Bの太い芯を入れて原稿を書いていました。

 高校時代から憧れていた伊丹十三さんは、書籍は自ら装幀(そうてい)し題字も自分でレタリングした文字でした。僕はそれをまねて、歌詞もカリグラフィーペンで原稿を書くようになりました。多くの作品を書いた荻野目洋子さんに「売野さんの特徴的な文字で埋まった原稿を眺めていると歌の世界が広がる」と言われた時はうれしかった。

 そんな僕でも、来年45年を迎える作詞家生活で手書きだった原稿はパソコンの文字に。ファクスや直接手渡ししていた工程はメールへと変化しました。

 仕事場の風景の中で変わらないものがコーヒー。自分でコーヒーをいれる時間は仕事に向かう儀式のようなものです。

 昔はタバコも1箱持ち込みました。当時吸っていたのはセーラム・ライト、マルボロライトのメンソール。コーヒーとタバコがあると頭の回転が良くなるような気がしていました。周囲からは「錯覚だよ」と片付けられていましたが、この2つが脳神経の接続に良い作用を働くと専門家が言い出した時は、やっぱりねと思いました。

 コーヒーに含まれるカフェインは、神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの分泌を促進します。タバコに含まれるニコチンは、脳の神経回路の接続部であるシナプスの受容体の代役を果たすことが分かっています。脳は神経細胞から1本の突起・軸索を伸ばし、その先端で神経伝達物質を放出して隣接する細胞に情報を伝えます。シナプスは脳内の神経細胞(ニューロン)同士が情報交換をする時の接合部。なのでコーヒーとタバコにはプラスの効果もあると言えるみたいです。愛煙家だった頃は、白い大きな食器皿を灰皿にしていました。欠かすことができない相棒でした。

 “相棒”といえば、何十年も大切にしているのが「角川類語新辞典(シソーラス)」です。刊行された1981年にニュースになってすぐに購入しました。約5万語が掲載されていて、例えば「美女」をひくと、“色女”“妖婦”“優女”“玉”など、連想させる単語がずらり勢ぞろいで出てくるんです。忘れていた言葉もあれば知らない単語もある。

 言葉にグラデーションがある歌詞を作るためには、何よりも言葉を知らなくてはいけない。実力を付けるために毎日1つお題を出して、そこから連想するものをノートに書き出すことをしていました。

 人の数だけ解釈があるから、1つにつき30個くらい。それを3回。30個×3回は結構な苦行だけど絞り出す。おかげで連想ゲームが得意になりました。

 ◇売野 雅勇(うりの・まさお)1951年(昭26)2月22日生まれ、栃木県足利市出身の74歳。企業のコピーライターなどを経て、81年作詞家に。中森明菜「少女A」、チェッカーズ「涙のリクエスト」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」などのヒット曲を生み出した。これまでに1500曲以上の歌詞を制作。2026年に活動45年の節目を迎える。

この記事のフォト

「美脚」特集記事

「中居正広」特集記事

芸能の2025年8月29日のニュース