【売野雅勇 我が道26】五木ひろしと「ジュリアに傷心」 思いを込めた歌詞

[ 2025年8月27日 07:00 ]

チェッカーズ「ジュリアに傷心」のジャケット

 作詞家として1500作ほどの歌詞を書いてきました。詞を書くときは毎回、タイトルと最初の2行に命を懸けています。

 過去の自分がインパクトを感じた言葉を使った作品としては、中森明菜「禁区」があります。このタイトルは、コピーライターをしていた1981年に中国で出合った言葉。アリスの中国公演に同行した際、北京のコンサート会場で目にしていました。立ち入り禁止を意味する中国語なのですが、会場になった体育館の白壁に大きな赤い文字で書かれた「禁区」を見た時に禍々(まがまが)しいインパクトがあって、いつか使おうと記憶しておきました。

 89年に発売された矢沢永吉「SOMEBODY’S NIGHT」の歌詞に「ポワゾン」を使ったのは、その頃ロンドン中がどこに行ってもクリスチャン・ディオールの香水「ポワゾン」の香りがしていた記憶から来たものです。英語で「毒」を意味する名前の香水は、矢沢さんのロックスピリッツにピッタリだと思い使いました。

 言葉に鋭敏になったのは子供の時から聴いているラジオの影響かな。

 コピーライターをしていた25、26歳の時、表紙に「MIND CIRCUS」とタイトルを書いたノートを作りました。気になった言葉をメモしたり、好きだった小説家の片岡義男さんの文章を書き写したりしていました。

 ずっと使おうと思っていて最近やっと自分の詞に登場したのは、2025年7月に発売された辰巳ゆうと「遊び道具じゃないんだ」に書いた「震える魂」でした。「魂」も「震」えるもよく使う言葉ですが、2つを組み合わせたのは初めてのことでした。

 歌詞は元々ある言葉の組み合わせ。だから組み合わせる言葉をいくつ知っているかが、歌詞が面白くなるかどうかの鍵を握ります。別々の言葉の結合から、抒情(じょじょう)や詩情というものが奇跡的に生まれることがあります。人には抒情や詩情に敏感な感受性が本能のように備わっているのです。

 ポエジーを感じさせる歌詞として、今も素晴らしいと思うのは、五木ひろし「よこはま・たそがれ」。♪よこはま たそがれ ホテルの小部屋――と続きますが、助詞なしで名詞を並ばせる作り方には驚かされました。

 実は1984年に発売された、チェッカーズ「ジュリアに傷心(ハートブレイク)」では、「よこはま…」への気分的なオマージュという感じで、♪キャンドル・ライトが ガラスのピアスに――とたたみかけるように言葉を並べた結果、強烈なメロディーとともに聴き手に衝撃を与え、ヒットにつながっていったのでした。

 ◇売野 雅勇(うりの・まさお)1951年(昭26)2月22日生まれ、栃木県足利市出身の74歳。企業のコピーライターなどを経て、81年作詞家に。中森明菜「少女A」、チェッカーズ「涙のリクエスト」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」などのヒット曲を生み出した。これまでに1500曲以上の歌詞を制作。2026年に活動45年の節目を迎える。

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