ろうそくの火を消したのは、いったい?
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【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】3月4日夜、「桂三木助独演会 五代目の挑戦Vol.13」に出掛けた。二つ目時代からホームグラウンドとしていた東京・千代田区の内幸町ホールが近く改装工事に入るため、池袋のHall Mixaに会場を移しての公演だ。
同ホールは2023年12月6日、桂三木助(40)が芸歴20周年の記念公演を開催した場所。あの時は03年入門の落語協会の同期10人が集結。古今亭文菊(46)、鈴々舎馬るこ(44)、柳亭こみち(50)ら二つ目時代に「TEN」というユニットを結成して切磋琢磨したメンバーたちで、最年少の三木助を手荒く祝福した。ホール入口につながる階段を下りながら、あの日の公演がきのうのことのようによみがえってきた。
13回目の独演会が開催された3月4日は雪が舞い、おまけに演目が「死神」と発表されていたため、何となく背中に薄ら寒さを感じながらの会場入り。三木助はオープニングトークからそのまま「午後の保健室」に入った。柳家喬太郎(43)作のおなじみの創作落語で、オヤジ臭い話し方をする中学3年の生徒会長とちゃらちゃらした話し方をする校長が保健室で繰り広げる喜劇。最後に保健室の先生の正体が明らかになり、シュールなサゲが笑いを誘う一席だ。お客さんを幻惑させる噺を三木助が選んだのには実は狙いがあった。「死神」に向けて仕込んだ“伏線”だったのだが…。
三木助は自身のXで「死神は怖さ重視なので、ゲストは明るい2人に任せました」と公表していたが、最初に登場したのは蝶花楼桃花(43)だった。1月末に楽屋で転倒して右手を骨折。ギプスで固定しながら奮闘していたが、この日やっと外すことができたと話し「扇子も右手で持てる」と、うれしそう。とはいえ、快癒を宣言するにはもう少し時間が必要な感じに見えた。
東京・歌舞伎座では松竹創業130年を記念した「仮名手本忠臣蔵」が初日を迎えた3月4日。「切腹場面が好き。自腹を切るのはイヤだけど」と明かすほどの「忠臣蔵」ファンを自認する桃花は、片岡仁左衛門(80)の大星由良之助を観劇後に会場入りし、金子成人作、師匠・春風亭小朝(70)譲りの「元禄女太陽伝」を熱演した。
「忠臣蔵」外伝ともいえる噺で、上州高崎から出てきて江戸の吉原で働くお熊(のちに改名して小春)が討ち入り前の大石主税の相手を務めたことから「主税を男にした」と大評判を呼ぶ噺。桃花も自ら楽しみながら明るく演じていた。
仲入を挟んで登場したのはアイドル顔の二つ目、金原亭杏寿(36)で、「鷺とり」を披露した。金銭目的に鳥を捕獲しようとして失敗する男の噺だ。三木助独演会では準レギュラーを務める沖縄出身初の女性落語家で、期待の逸材。この夜も杏寿色を全面に押し出して魅了した。
そしていよいよクライマックス、その時が来た。三木助の「死神」だ。一席が終わった後にスクリーンに映し出すイラストを用意してあると断った上で、静かに話し始めた。
中盤、そして終盤に近づくにつれて噺に緊迫感が増していく。話術に引きずり込まれて、会場からはせき払いひとつ聞こえず、静寂が支配。筆者もどんなサゲが待っているか耳をそばだてて聞き入った。
「これからまだまだ進化(深化)させていきたい」と意欲を示す三木助。もちろんここでエンディングは書かないが、最初に「午後の保健室」をかけた意味がここで生きてくる。オヤジのような中学生、ちゃらい校長、そして謎めいた保健室の先生…。「死神」のサゲにも大いに幻惑された。いったいろうそくの火を消したのは?
帰りしな、三木助は「皆様が考えていた最後の死神が変わるかもしれません…。」と、今回の「死神」のために制作したイラストが再見できるバーコード付きの紙を希望者に配布。チャレンジ精神おう盛で、公演全体を貫く仕掛けを施した三木助。ミステリアスで遊び心が詰まった高座にしびれてしまった。
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