「鵜ノ巣」には思い入れがある
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【舌先三寸】60歳の定年を前に取得した長い休暇を利用して真夏の三陸を行く。
岩手県普代村にある国民宿舎くろさき荘から北山崎展望所まで「みちのく潮風トレイル」を歩いた。想像以上の難路は、アップダウンの繰り返しの約10キロ。大断崖の絶景を放心状態で眺め、レストランで食べたのは「磯ラーメン」。この旅の道中で同名のラーメンを食べるのは3回目となる。魚介ダシの塩ラーメンで、具はホタテやエビ、カニ、メカブなど。さっぱりしていておいしい。
まだ正午過ぎである。当初はバスで三陸リアス線の普代駅まで下り、一駅乗って田野畑駅で下車。この日の宿泊地、田野畑村の羅賀荘入りを予定していた。だがバス停で発車時間などを再確認していると、1時間ほど待てば、田野畑駅まで行く乗合タクシーなるものがある。
さらに1本前のタクシーは、継続して「鵜ノ巣断崖」までの往復も可能。「鵜ノ巣」については後述する。
電話で呼ぶと4人乗りのタクシーが来た。メーター走行ではなく定額制。バスなど交通機関が整備されていない地域では、行政から委託されてこの「乗合タクシー」が運行されている。お年寄りの病院への送迎や買い物の足などで利用される。
客は私1人。ダメを承知で「鵜ノ巣」までの往復を運転手さんにお願いしてみる。
「通常のメーターなら行けますけど、片道5000円は出ます」
往復1万円は痛い。
「鵜ノ巣」には思い入れがある。
前回のこのコラムで引用した小説「三陸海岸大津波」。作者の吉村昭は毎年のように田野畑村を訪れた。小説を書くための取材旅行のほかに夫人で芥川賞作家の津村節子を伴ってプライベートでも。
津村が夫婦での旅の思い出などを綴ったエッセイ集「三陸の海」によると、昔は田野畑にたどり着くのに2泊3日掛かった。「陸の孤島」と呼ばれていた、など同地の僻地ぶりが書かれている。
吉村は田野畑の人たちと積極的に交流した。手つかずの自然が残されている村も大好きだが、人も好き。村の発展のため尽力した故・早野仙平町長の交友は“君子の交わり”と呼べるもので読んでいてうらやましくなるほどだ。
そんな話をタクシーの運転手である山崎さんにした。聞き上手で、愛想が良い、見るからの好漢だ。
「そういえば早野町長が口説いて、無医村だった田野畑へ連れてきた医者。何か変わった名前の…」
「将棋面先生ですね」
国保田野畑村診療所長だった将棋面誠氏だ。津村のエッセイにも、吉村にとって「将棋面誠氏に会うのが、田野畑へ行く一つの楽しみとなった」とある。
「僕、将棋面先生にお世話になっていたんです」と山崎さんだ。
「注射をしないので子どもたちにも人気がありましたね」
奇遇だ。記録文学の第一人者として金字塔を築いた大作家の友人の患者といま話をしている。吉村が一気に身近な人となった。
震災遺構である「明戸海岸防潮堤」のところでタクシーを降ろしてもらい、「鵜ノ巣へは今度、来てくださいね」と山崎さんは爽やかに去って行った。ところがだ。数分して車が戻って来た。
「会社に確認したら鵜ノ巣への午後便は誰も利用するお客さんがいなかったのでこれから行けますよ」
「鵜ノ巣断崖」。海面から200メートルの高さまで屹立する光景が圧巻。吉村はこの断崖で腹ばいになり遙か下の海を見たという。
ひらめくものがあって小説「星への旅」を書いた。同作で1966年(昭41)、太宰治賞を受賞した。これが“出世”への糸口となった。
鵜ノ巣断崖には吉村昭の「星への旅」の一節が刻まれた文学碑がある。
表面は「水平線に 光の帯が流れている 漁船の数はおびただしいらしく 明るい光がほとんど切れ目もなく 点滅してつらなっている それは夜の草原に壮大な陣を布く 大軍の篝火のようにみえ 光が 水平線から夜空一面に広がる 星の光と同じまたたきを くりかえしていた」
裏面は「小説 星への旅は 田野畑村の空と海 そして星空の かぎりない美しさに 感動して書いた小説です」
展望台から見た鵜ノ巣断崖は、打ち寄せる波を受け止め、堂々とそそり立っていた。私はなぜいままでここを訪れなかったのか?
「星への旅」で吉村は、人生に倦み、崖から集団で身投げを若者たちを透徹した文体で描いた。
目の当たりにした鵜ノ巣断崖は、言葉を失わせる存在感と自然の造形美があった。生死や時空を超える美しさに魅入られた。
駐車場で「見られてよかったですね」と山崎さんがにこにこして待っていてくれた。
帰りの車中。「岩手県で一番、人口が少ないのが普代村(2483人、22年調べ)で次が田野畑村(3117人)なんですよ。だから悪いことなんてできませんよ。あおり運転なんてね」
美しい自然があるところには選ばれて美しい心の人たちが住む。きっと。
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