熊川哲也 50歳独身のバレエ界のスターが望むことは「第2の熊川哲也」の誕生

[ 2022年10月25日 05:05 ]

インタビューに答える熊川哲也(撮影・会津 智海)

 世界的バレエダンサーの熊川哲也(50)が、バレエ界のニュースター誕生を熱望している。自身が社長を務める株式会社Kバレエカンパニーが7月にTBSホールディングスと資本業務提携を締結。事業を拡大しバレエ文化を広げていく中で、“第2の熊川哲也”の誕生を心待ちにしている。

 熊川は1998年に26歳でKバレエを設立。ダンサー、芸術監督、社長の三刀流で、オリジナル公演の制作、プロを目指す子供から大人の趣味まで教室を展開、講師の育成などバレエ界の整備に尽力してきた。ただ、25年間でいまだに出来ていないことがある。それがスターの育成だ。

 「僕は25年間、熊川哲也をつくるために頑張ってきたんですよ」。そう口を開くと「でもなかなかつくれない。やっぱり意図的には無理。テレビに出したりいろんな仕かけをしても、結局は虚像のスターしか生まれない。ステージを見ても心が震えないんですよ」とキッパリ語る。

 自身は89年に16歳で出場したローザンヌ国際バレエコンクールで、東洋人初の金メダル(最優秀賞)を受賞。欧州の第一線で活躍し、93年に英ロイヤル・バレエ団の最高位ダンサー、プリンシパルに上りつめた。

 まさにスターという経歴を持って帰国すると、Kバレエで毎年のように全国ツアーを開催。年間50公演・観客10万人動員とバレエ界ではまれな市場を築いた。「日本にバレエ文化を広めたいというのは後付けの理由。当時は自分の市場が日本にあると思っていたし、自分がやりたいことをやりたかっただけ」と振り返る。
 今年3月に50歳を迎えた。この年まで現役を続けているのは、世界的に見ても稀有だ。ステージを退く時期も近い。そんな50歳独身の男が楽しみにしているのが、新たなスターに出会うことだ。

 スポーツ界に目を向ければ、世界で活躍する日本人が増えた。「テニスの錦織圭くん、ゴルフの松山英樹くん、野球は大谷翔平くん。体形やメンタリティー、グローバルマインド、いろんな要素はあると思うけど、スポーツ選手はやっぱりすごい。勝ち負けがあるから、結果がすべて。ファンも応援できる体験型。でも、バレエは人間の芸術。陶芸みたいなもので“これが良いんだ”と言われれば、それが良いものになる。難しい世界です」。

 実力だけでスターになれる世界ではない。毎年のようにローザンヌでの日本人の活躍が報じられるが、国内で熊川以上に名の知られた存在はいないのが事実。育成も難しい。だとしてもファンを増やすには「やっぱりいつの時代も人々を魅了するスターが必要」とジレンマを抱えている。

 TBSとの提携により、今後はバレエ教室を増やすなど教育分野へのさらなる展開、オリジナル公演の海外進出など事業を拡大していく。その中でスターが生まれることを期待している。

 「ヤンチャでぶっ飛んでて、かわいくてチャーミングで、天才じゃなきゃいけないし、運動神経が半端ないことが必要。条件を並べてたらもう絶対無理ですから。これは俺のケースだけど」と相変わらずのビッグマウスっぷり。自身の成功を「あの時代だったから」と揶揄されることもある。「でも俺は今の時代に出てても(スターに)なってたと思う。そういうメンタリティーが必要です」と鋭い視線を向けた。


 ≪「クレオパトラ」で3年ぶり大作のステージ≫26日に東京・渋谷のBunkamuraオーチャードホールでスタートするKバレエの秋公演「クレオパトラ」で、3年ぶりに大作のステージに立つ。ジュリアス・シーザーを演じるが「脇役だからあんまり期待しないで。カッコいい死に様を見せたいとは思うけど、飛んでくれとか言われるとね…」と笑う。「誤解を恐れずに言うと、スターって出方が難しいわけですよ。ただ、50歳になって、年齢的にかっこつけててもしょうがない年齢だし、別に目立たない役でもいいんだっていう後押しにもなった」。華やかな演技は若手ダンサーにバトンタッチし、自らはシーザーとして存在感を発揮する。

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