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【八重樫東 観戦記】尚弥の強さの源はメンタル、他人とは違う一撃に懸ける集中力の高さ

[ 2019年11月8日 09:00 ]

WBSSバンタム級トーナメント決勝   ○(WBA&IBF王者)井上尚弥《判定3―0》(WBAスーパー王者)ノニト・ドネア● ( 2019年11月7日    さいたまスーパーアリーナ )

八重樫東
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 井上尚のジムの先輩で元3階級制覇王者・八重樫東(36=大橋)はドネアとの頂上決戦をリングサイドで見守った。自らも階級の壁を越えてきた八重樫はモンスターと呼ばれるまでに成長した後輩の戦いをどう見たのか?スポニチ本紙に観戦記を寄せた。

 正直、こんな展開になるとは予想していませんでした。36歳のレジェンドの持っている何かに押されたんでしょうね。苦戦しましたけど、尚弥が楽しそうにボクシングをしていたので良かったです。

 僕は中盤に倒して勝つと予想してました。ドネアはフライ級、スーパーフライ級時代と比べて繊細さが失われていたような気がします。年齢的なものというよりキャリアの影響かな。重い階級で戦うために求められるものが違いますから。左フックは当たれば威力があるけど、今の尚弥には当たらないと思ってました。尚弥は距離感が良いし、ここで打てば効くとか、カウンターをもらわない立ち位置とかポジショニングがうまくて“空間”というものを凄く分かっているので。右目上をカットしたのは誤算ですけど、それもボクシングですから。

 僕が尚弥と最初に出会ったのは彼が中3の時でした。大橋会長にスパーリングの相手を頼まれて。その時は「中学生にしては強いな」ぐらいの感じだったんですけど、次にスパーした時は…多分、高2だったと思うんですけど、ガラッと変わっていました。全体的にレベルアップして、凄く強くなっていましたね。それから尚弥がライトフライ級で世界を獲るころまではスパーをしてました。

 尚弥はずっと順調に成長してきたように見えますが、彼の頭の中では全てがうまくいっているわけではなく、壁にぶつかったり、悩んでたりしていたと思いますよ。そして常に「どうしたら現状を打破できるのか?」を考えていたと思います。彼の頭の中のことなので、本当のところは分からないですけど(笑い)。

 尚弥の強さの秘けつをあえて一言で言うなら「集中力」かな。パンチとかスピードとか、フィジカル…そういう部分は世界的に見ても飛び抜けているけど、彼をつくっている大切な部分はメンタリティーなんです。尚弥って凄く基礎を大事にするんですけど、練習に対する集中力が凄い。普段の一発一発の集中力の高さは他の人とは違うものがあります。

 僕が川嶋さん(勝重=元WBC世界スーパーフライ級王者)の背中を見てきたように、今のジムの下の子たちにとって尚弥は目指すべき選手だと思います。そうすれば、また次の世界王者が大橋ジムから誕生するかもしれません。僕も尚弥にはたくさん刺激をもらいました。12月23日にIBF世界フライ級王者モルティ・ムザラネ(南アフリカ)に挑戦します。また世界王者に復帰できるように頑張るので応援よろしくお願いします。

 ◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日生まれ、岩手県北上市出身の36歳。黒沢尻工高―拓大。05年3月プロデビュー。11年10月にWBA世界ミニマム級王座、13年4月にWBC世界フライ級王座、15年12月にIBF世界ライトフライ級王座を獲得し、日本人男子3人目となる3階級制覇を達成した。プロ戦績は34戦28勝(16KO)6敗。身長1メートル60の右ボクサーファイター。

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