【内田雅也の追球】「悔しさ」を胸に抱いて

[ 2025年11月1日 08:00 ]

阪神電鉄本社を訪れた阪神の藤川監督(撮影・大森 寛明)
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 終戦の翌日、秋雨のなかを阪神監督・藤川球児は大阪・野田の阪神電鉄本社に出向いた。恒例のシーズン終了のオーナー報告である。

 日本シリーズでの敗退は心にこたえたはずである。たとえば1979(昭和54)年の第7戦「江夏の21球」で敗れた近鉄監督・西本幸雄は「2、3日ゆっくりしたい。頭を空っぽにしたい」と翌日から休んだ。

 藤川は休んではいなかった。監督1年目を振り返り「こんなものなのかな、という感じ」と泰然としていた。ふだんから選手に「一喜一憂しない」と平常心で戦う姿勢を伝え、自身も貫いているからだろうか。

 座右の銘は名前を盛り込んだ造語の「球進一歩」で、道を歩んでいる。「一歩一歩です。まだ道中。ゴールのない、終わりのない道ですから。選手の日々の努力で、芯のある、強くブレないチームを作っていく」

 「経営の神様」松下幸之助の随想を集めたロングセラー『道をひらく』(PHP研究所)も冒頭に「道」と題した一文がある。「自分には自分に与えられた道がある。自分だけしか歩めない大事な道ではないか。(中略)たとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは必ず新たな道がひらけてくる」。道を行く者へのエールである。

 藤川は敗戦にも「悔いはない」と前夜と同じ言葉を繰り返した。だが、悔しいのは確かだ。「チームとして悔しさはあると思うが、悔しいから努力する、頑張るではない。悔しかろうが、満足してようが、日々努力で常に100%を目指す」

 なるほど、完璧主義のように、目指す姿勢は非常に高い精神性の境地である。ただ、悔しさを糧に頑張るというのもまた人間ではないだろうか。

 日本一となったソフトバンク監督・小久保裕紀は「昨年は悔しい思いをした。日本シリーズで敗れた喪失感を1年持ち続けていたので勝てて本当にうれしい」と語っていた。悔しさが原動力の一つとなっていた。

 先の松下幸之助の名言にある。「人には燃えることが重要だ。燃えるためには薪が必要である。薪は悩みである。悩みが人を成長させる」

 悔しさも人を成長させてくれる力になる。悔しさを抱いて、道を歩めばいい。 =敬称略= (編集委員) 

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