【内田雅也の追球】機運呼ぶ凡飛疾走

[ 2025年5月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―2広島 ( 2025年5月30日    マツダ )

<広・神>5回、生還して村上(右)とハイタッチをかわす近本(中央)と中野(撮影・北條 貴史)
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 野球の神様はいる。必ず見ている。その視点は、できることを誠実にやり抜く姿である。

 阪神5回表の勝ち越し決勝点は相手守備陣のミスによる拾い物の得点だった。ただ、その幸運が起きた時の姿勢に見るべきものがあった。

 近本光司の中前打で同点に追いつき、中野拓夢も中前打で続いた。なお2死一、三塁だった。

 森下翔太が打ち上げた飛球は左翼前に上がった。広島左翼手サンドロ・ファビアンが声と動作で自分が捕ると示していた。そこに猛然と遊撃手・矢野雅哉が深追いし突っ込んできた。衝突し白球は緑の芝生に弾んだ。

 この時、飛球を追う両者を横目に一塁走者・中野は二塁から三塁へ全力で走っていた。三塁ベースコーチ・田中秀太が腕を回すのを見て、そのまま本塁を駆け抜けた。

 記録は矢野の失策である。ファビアンの邪魔をしたうえ、なおかつ飛球を落としたのだ。

 近本に続き、中野の長駆(ちょうく)生還で2点差をつけた。凡打での疾走など当たり前と言うなかれ。力走を怠る時があるのも確かである。

 思いだすのは日本一となる1985(昭和60)年4月16日、あのバックスクリーン3連発の前夜、同年最初の巨人戦(甲子園)である。

 0―2の4回裏2死一塁、佐野仙好の遊撃後方のフライを河埜和正がグラブに当て落球。一塁走者・岡田彰布(現オーナー付顧問)が本塁に還った。この後、打線が爆発し、この回一挙7点。逆転勝利を飾った。当時監督の吉田義男は「岡田の走塁がポイントでしたな。ファインプレー違いますか」と語っていた。

 また、ベンチにいたトレーナー・猿木忠男は「岡田が全力で走って還ってきた。あの走塁に例年とは違う雰囲気を感じた」と語っていた。優勝機運だろうか。同じ遊飛失策での長駆生還である。この夜の疾走も機運につながるかもしれない。

 大人の童話と言われるビートたけしの小説『草野球の神様』(新潮社)で、草野球チームを連戦連勝に導くコーチが登場する。「神様」と呼ばれる男のセリフにある。

 「野球っていうのは、一番つまらないと思うようなことを一生懸命にやらなくちゃダメなんだ。それに対しての報酬が、勝つということなんだ」

 伝えたのは全力疾走だった。今の阪神がテーマとする「凡事徹底」に通じている。 =敬称略=
 (編集委員)

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