【内田雅也の追球】「中ぱっぱ」までは…

[ 2025年4月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―5ヤクルト ( 2025年4月9日    甲子園 )

<神・ヤ>6回、2つの暴投で2点を失い降板した工藤(右)左端は藤川監督(撮影・北條 貴史) 
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 3―0の6回表無死二、三塁でルーキー工藤泰成がマウンドに上がると、記者席の隣にいたOBが「嫌な予感がする」と漏らした。練習で投げる5球を見て、不調を感じ取っていたのだ。

 悪い予感は的中する。工藤の制球は大荒れだった。2つの暴投(梅野隆太郎でも止められなかった)に2つの四球で2点を失い、降板となった。

 3番手・及川雅貴が代打・増田珠に打たれ同点。さらに一ゴロを処理した大山悠輔が本塁に悪送球して2点を勝ち越された。工藤が残した走者が決勝生還しており、プロ初黒星が付いた。

 工藤は確かに剛球で素晴らしい投手だが、育成ドラフトで入団した新人である。修羅場での登板は心身ともにこたえることだろう。

 そんなことは百も承知だという顔で、敗戦後、監督・藤川球児は話した。「工藤には成功体験も必要ですから。つくっていくという意味でね」

 将来の強力リリーバーとしての素材と評価しているのだろう。藤川は先を見ているわけだ。

 試合前、雑談する機会があった。その時も「今はまだチームをつくりあげている最中ですから」と話していた。「優勝するチームでも50敗以上するわけですから」

 その通り、優勝チームでも勝率5割台という激戦の世界である。そして野球の神様は「負けから学べ」と言う。自身も監督としては新人で、指揮官として負けを受け入れる日々を過ごすのは、修行のようでもあろう。

 すると、藤川は笑いながら、歌うように言った。「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、ですよ」

 昔の、釜での米の炊き方、火加減を言った言い回しである。最初は弱火でちょろちょろ、途中からぱっぱと強火にする。チームとしての火は今はまだ弱いが、そのうち強くしてみせる、という風に聞こえる。この辺は土佐の「いごっそう」の気骨かもしれない。

 打線もまだまだである。体調不良の佐藤輝明を欠くなか、2回裏に先制した。ただその3点は敵失に犠飛、犠打であげたもの。適時打は4日巨人戦(東京ドーム)8回表の佐藤輝右前打を最後に足かけ5試合、37イニング出ていない。

 「中ぱっぱ」の後は「赤子泣いてもふた取るな」と続く。おいしい米を炊くには、いや強いチームをつくるには、辛抱も必要という意味だと受け取りたい。 =敬称略= (編集委員)

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