【内田雅也の追球】「少年」たちの可能性

[ 2025年3月16日 08:00 ]

プレシーズンゲーム   阪神3―0カブス ( 2025年3月15日    東京D )

<阪神・カブス>5回、二盗を決める中野(撮影・白鳥 佳樹)
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 阪神の選手たちは少しずつ若返っていった。東京ドームに入り、カブスの練習を眺め、試合前セレモニーでメンバー紹介があり、国歌が流れ、始球式があって……プレーボールの時にはもう少年に戻っていた。

 野茂英雄がドジャース入りしてからでも30年、すっかり近くなった大リーグへの憧れはプロの選手を野球少年にかえしていた。校庭や公園、路地裏や田んぼで日が暮れるまでボールを追った原点である。楽しそうに、はつらつとして見えたのは少年だったからだ。

 1991年3月、大リーグキャンプを見て回った山際淳司が『野球少年』と題し<野球選手はいくつになっても(中略)“kids”であり、“boys”なのである>と書いていた。<エキサイティングなゲームをつくりだすのは、かれらのなかにまだ「少年」が棲(す)みつづけているからなのだ>。

 目が輝き、打っても打ち取られても爽快な表情が浮かんだ。真顔と笑顔が交錯した。各打者は打席に入るとすぐに構え、投手を見すえた。そして特に大山悠輔などは早めにタイミングをとった。間合いが短く、球が速い大リーグ投手への対応なのだが、これが真っ向勝負を印象づけていた。

 監督・藤川球児は試合前に「精いっぱい楽しんでほしい」と言った。加えて記者団に「日本の野球の素晴らしいところをメジャーの選手に学んでほしい」と話していた。

 光ったのは3個決めた盗塁だろう。4回裏の森下翔太二盗、5回裏の中野拓夢二盗はともに追加点生還につながった。

 大リーグ投手のモーションが大きく、盗塁はたやすかった。二盗を決めた時の投球タイムは1秒57(森下)、1秒46(中野)、1秒48(佐藤輝明)と、及第点の1・2秒台にほど遠かった。クイックモーションに無頓着な大リーグ。首脳陣は「どんどん走っていけ」と言い、きめ細かな日本の良さをアピールできた。

 相手のカブスは藤川が現役時代、海外FAで移籍したチームである。だが、プレー以外の「壁」と右肘手術で思い出は苦い。引退直後に出した著書『火の玉ストレート』(日本実業出版社)では<憧れの地での苦闘>と章を割いている。

 今のカブスは時差ぼけもあり、体調不十分で割り引いて見るべきだ。それでも快勝は快勝だ。「少年」への可能性と期待が膨らんだ一戦だったとみたい。 =敬称略= (編集委員)

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