【選抜100年 世紀の記憶(3)】「元祖・怪物」江川卓の衝撃 3人の証言から51年前の剛速球を再検証
連載「選抜100年 世紀の記憶」の第3回は、高校野球史上初めて「怪物」と呼ばれた作新学院(栃木)・江川卓の衝撃を取り上げる。甲子園に初見参したのは3年春の1973年、第45回大会だった。SNSはおろかインターネットも普及していない昭和48年。前評判だけが先行し、実際に投球を目撃した人は限られていた。その環境下で1回戦で対戦した優勝候補の北陽(大阪=現関大北陽)は、19三振という記録的な快投を許し、敗れることになる。江川の聖地デビュー戦とは――。当時の北陽メンバー3人の証言から、51年前の怪物の剛速球を再検証する。
対戦前に江川卓を知っていたか――。北陽の主将だった広瀬満大が51年前の記憶をさかのぼる。「存在は知っていました」。新聞で「2年夏の県大会で完全試合を含む3戦連続無安打無得点試合」「110イニング連続無失点」と読んだからだ。ただし、開幕戦での対戦が決まった抽選後も映像を見たわけではなかった。怪物と呼ばれるゆえんまでは、知らなかった。
73年3月27日、東西横綱の対決を目当てに5万5000人が聖地に押し寄せた。のちに西武、近鉄で活躍する慶元(けいもと)秀章(当時は秀彦)は開会式直前に緊張からトイレに駆け込む。そこに作新学院のユニホーム姿の選手がいた。「なんや、この大きなお尻は…」。背中には背番号1。北陽の選手と江川の初対面だった。開会式後、遠投をする江川に再び驚かされる。「軽く投げた球がグッグッ!と3段階ぐらい伸び上がっていた。皆もあぜんとしていた」。北陽のエースは、高卒ドラフト2位で近鉄に入団する有田二三男だ。関西No・1右腕を知る選手たちが、キャッチボールを見ただけで腰を抜かしていた。
そして甲子園初登板となる「怪物」の奪三振劇が幕を開ける。初回先頭、剛速球に三振の冠野典久が2番・慶元に耳打ちした。「速くないわ」。強がった冠野の顔色が真っ青だった。慶元もかすりもせずに三振。「打てる、大丈夫や」とウソをつく顔が引きつった。初回はカーブ1球を除く直球勝負に3者連続三振。2回1死、有田の捕手後方へのファウルで23球目にして初めてバットに当てると、静まりかえっていた観客から拍手が起きた。
その球筋を説明するときは、口ぶりが今でも興奮気味になる。慶元は「150キロは出ていた。ボンッ!と来るバズーカ砲みたい」、3番の広瀬は「球が見えずに影が通り過ぎる火の玉のようだった」と表現する。さらに2人は口をそろえて付け加える。「本気で投げたのは初回ぐらい」。秋季大会で出場30校中トップのチーム打率・336を誇った打線に、力を加減して三振の山を築いていたのだ。
打者一巡を終えて8三振、1四球の惨状でも、江川攻略の雰囲気を感じさせる打者はいた。初めて江川の球をバットに当てた5番・有田、1打席目の初球に強烈なライナー性のファウルを放った6番・杉坂高の2人だ。そして0―1の4回2死無走者。有田がチーム初安打となる右越え三塁打を放ち、絶好機で杉坂に打席を回した。
しかし杉坂は高橋克監督のサインに目を疑う。「本盗?」。初球は真ん中直球だった。数少ない失投を見送ったのに、三走の有田がサインを見落としていた。2球目も指示は変わらない。今度は有田が走り出すも、三本間の中間付近で悠々とタッチされた。「見逃した直球が今でも目に焼きついている。打てた気がした」。こうして、最初で最後の好機をあっけなく逸した。
5回1死での左飛まで、本盗失敗を除いたアウトは全て三振だった。記録的ペースで三振が積み上がっても、打者はバットを長く持って振り回し続けた。試合前、指揮官が念を押していた。「当てにいくと振り負ける。三振を怖がるなよ」。広瀬も「悔いは残したくない。最後まで強振すると決めていた」と今でも方針に間違いはなかったと考えている。
6回からは3イニング連続で安打が出たが、走者が出れば力を入れられ、ひねられた。そして迎えた0―2の9回に喫した3者連続三振により、語り草となる「19三振」が刻まれた。その裏には、強振を貫いた北陽のせめてもの意地も隠されていた。
当時は球速表示がなかった。100年を迎えた選抜史上、江川が最速投手だった可能性もある。NPBで通算486試合に出場した慶元が証言する。「プロで村田兆治さんや山口高志さんらとも対戦したけど、選抜の江川が一番速かったよ」。こうして聖地に初見参した怪物の正体が、日本中に知れわたった。 =敬称略=
(河合 洋介)
◇江川 卓(えがわ・すぐる)1955年(昭30)5月25日生まれ、福島県出身の68歳。作新学院(栃木)では73年春の選抜4強、同夏の甲子園大会2回戦敗退。同年のドラフトで阪急(現オリックス)に1位指名されたが、拒否して法大に進学。東京六大学リーグ歴代2位の通算47勝、同最多の通算17完封をマークし、5度のリーグ優勝に貢献。77年ドラフトでもクラウンライター(現西武)に1位指名されたが、再び拒否。翌78年に巨人入団。81年に20勝など最多勝2度、最優秀防御率1度、MVP1度。通算266試合135勝72敗3セーブ、防御率3・02。87年限りで現役引退。1メートル83、90キロ(現役時)。右投げ右打ち。
《「平成の怪物」は松坂大輔》江川に続き、不世出の剛腕投手として「平成の怪物」の異名を取った横浜(神奈川)の松坂大輔は、98年の第70回記念大会で聖地初見参を果たした。報徳学園(兵庫)との2回戦の2回には、5番・鞘師智也(元広島)に対して投じた4球目が春夏を通じて甲子園大会史上初となる「150キロ」をマーク。その試合で2失点完投勝利を挙げると、続く3回戦、準々決勝を連続完封で勝ち上がった。準決勝でPL学園、決勝では関大一と大阪勢を連破し、紫紺の大旗を手にした。
松坂は続く夏の甲子園大会でも「怪物」だった。準々決勝でPL学園と延長17回の激闘を演じ、京都成章(京都)との決勝では大会史上2人目となる決勝戦でのノーヒットノーランを達成。史上5校目となる春夏連覇の原動力となり、聖地に記録と記憶を刻んだ。
野球の2024年1月23日のニュース
-
現役ドラフトで加入の巨人・馬場 G球場訪問 古巣・阪神との開幕カード「投げられたらいい」
[ 2024年1月23日 19:03 ] 野球
-
DeNA プロ史上初?「映画館」スタッフミーティング終了 ドラ1度会はキャンプA班スタート決定
[ 2024年1月23日 19:00 ] 野球
-
巨人・近藤 トレード移籍後G球場初訪問 初の関東生活に不安…元同僚の鈴木は「運転手」
[ 2024年1月23日 18:39 ] 野球
-
楽天・則本 子供の教育支援活動として155万円寄付 クローザー転身、来季は「1登板につき5万円」
[ 2024年1月23日 17:52 ] 野球
-
楽天がオリジナル車いすを東北大病院に寄贈 銀次アンバサダーが贈呈「思わず自分も泣いてしまって」
[ 2024年1月23日 17:35 ] 野球
-
ロッテが「ちば夢チャレンジ功労賞」を受賞 10年間で小中学生ら34万人超無料招待
[ 2024年1月23日 16:53 ] 野球
-
“幕張の奇跡”ロッテ藤岡が目標にする他球団の現役選手「同級生なんですけど…」
[ 2024年1月23日 16:50 ] 野球
-
亜大の元監督が不適切行為で謹慎 昨年5月に退任 日本学生野球協会審査室会議 他9件処分
[ 2024年1月23日 16:39 ] 野球
-
“幕張の奇跡”ロッテ藤岡が影響を受けた2人の先輩「近づきたいと思った」「今でも忘れない」と感謝
[ 2024年1月23日 16:16 ] 野球
-
DeNA“超異例”スタッフミーティング映画館開催 関係者「皆で鬼滅の刃を観て気分を高める」と冗談!
[ 2024年1月23日 15:29 ] 野球
-
阪神ドラ1右腕・下村が背中の張りを訴え別メニュー キャッチボール中に離脱
[ 2024年1月23日 15:00 ] 野球
-
阪神と巨人の相互展開プロジェクト「伝統の一戦」を今年も実施 甲子園では5・24からの3連戦
[ 2024年1月23日 14:20 ] 野球
-
ソフトB渡辺陸 オフの化け物化に成功 体重3桁到達で打撃さらにパワフルに
[ 2024年1月23日 14:18 ] 野球
-
西武 ドラ1武内が必殺のツーシームを披露 斜めに鋭く落ちる変化に「自分の持ち味。武器の一つ」
[ 2024年1月23日 14:02 ] 野球
-
西武 ドラ1武内のブルペン投球を受けたのは22歳の新人ブルペン捕手 現場デビューに「緊張しました」
[ 2024年1月23日 13:42 ] 野球
-
15年にアストロズで19勝 36歳ベテラン右腕のマクヒューが現役引退 「諦めなかったこと誇りに」
[ 2024年1月23日 13:34 ] 野球
-
セ・パ交流戦日程発表 全6試合ナイターで開幕 今季も「日本生命」が特別協賛
[ 2024年1月23日 13:21 ] 野球
-
ドジャースが新たな先発を補強?米メディアが左腕パクストンと契約「近づいている」と報道
[ 2024年1月23日 12:27 ] 野球
-
選手会・森事務局長 人的補償「すぐにでも撤廃してほしい。起きるべくして起きた」ソフト―西武間めぐり
[ 2024年1月23日 12:04 ] 野球
-
阪神・原口文仁、大腸がん「完治」を報告 「ステージ3b」手術から5年…「野球ができる毎日に感謝」
[ 2024年1月23日 11:13 ] 野球
























