大谷MVPならず 辞退する記者増える傾向…その理由 通信員が解説する近年の投票事情

[ 2022年11月19日 04:50 ]

大谷(左)と今季のア・リーグMVPを獲得したヤンキースのジャッジ

 大リーグ機構(MLB)は17日(日本時間18日)、今季の両リーグMVPを発表し、ア・リーグのエンゼルス・大谷翔平投手(28)は2年連続受賞を逃した。リーグ新の62本塁打を放ったヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手(30)が初選出された。1位票は30人中、ジャッジが28票に対し、大谷は2票。

 各賞が記名投票で結果も公表される米球界では、投票をやめる記者が増えてきている。「今回から投票はやめたんだ。理由はマリナーズのフリオ・ロドリゲスのような契約が出てきたこと。取材に影響するかもしれない」。ESPNの敏腕記者ジェフ・パッサン氏が明かした。昨年のア・リーグMVPで大谷に投票していた一人だ。

 危惧していたのは報道倫理に影響が出ること。例に挙げたロドリゲスの契約は、出来高の中身にMVP投票の結果が含まれる。28年までの契約期間中に、MVP投票で10位以内が4度ならいくらなど、細かく定められた。記者の投票が選手の報酬を決めてしまう。

 記者と選手の間に投票が理由で、あつれきや摩擦が生まれる恐れがある。実際、過去にそうした事例はあった。ニューヨーク・タイムズ紙、ロサンゼルス・タイムズ紙などは記者を採用する時点で、契約書にポストシーズンの投票はしないという項目を入れている。

 「ジ・アスレチック」のアンディ・マッカロー記者も以前から投票をやめている。誰が一番かを決めるのは難しく、ジャーナリストの本分ではないと感じているからだ。「特にサイ・ヤング賞。チーム事情により、長いイニングを投げられる投手と、そうでない投手がいる。最も優れた投手を選ぶのは至難の業だし、膨大な時間も要する」

 SNS隆盛の世となり、投票の賛否についてネット上で攻撃されることも珍しくない。前日にはサイ・ヤング賞で、ただ一人大谷に投じなかったブライアン・マクタガート記者のツイッターに、非難の言葉が飛び交った。

 ジャッジか大谷か、現場の記者たちが真剣に投票に向き合っているのは確か。一方で記者の仕事はニュースを報じることで、ニュースをつくり出すことではないと自問自答しているのも現状の姿だ。野球専門ではない記者が投票者に選ばれるケースもある。自然と「流れ」を重視し、個性的な意見は封じられてしまう。一部記者の投票離れは、投票の質の低下さえ懸念させる。(奥田 秀樹通信員)

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