【内田雅也の追球】父が教える「悔恨は力」 島田も湯浅も貴重な経験

[ 2022年6月20日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4ー7DeNA ( 2022年6月19日    甲子園 )

<神・D>6回、空振り三振に倒れ、バットを振り上げて悔しがる阪神・島田(撮影・北條 貴史)
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 映画『フィールド・オブ・ドリームス』は父子の会話で始まる。野球好きの農場主レイが幼い娘カリンに語りかける。

 1919年ワールドシリーズでの八百長事件で永久追放となった“シューレス”ジョー・ジャクソンがいかにすごい選手だったか。数字を並べ「彼はやっていない」と無実と無念を聞かせる。

 「それをつくれば、彼はやって来る」という謎の声に動かされ、トウモロコシ畑をつぶし、野球場をつくる。ある日、そこにジャクソンが現れる。さらに大リーグで出場1試合、打席0で医師に転じた者、野球を愛した作家、そしてレイの父親も姿を見せる。野球を続けられなかった者たちの心痛をいやし、無念や悔恨を晴らす物語である。

 「野球は父子相伝の文化」だと作家ロジャー・カーンはいう。多くの者は父から野球を知る。父は誰も皆、悔恨を抱き人生を歩んでいる。子の成長に自分を重ね見る。やはり野球は人生に似る。

 父の日だった。スタンドには家族連れが目立った。阪神は連勝が5で止まった。今月、甲子園では初めての敗戦だった。
 この悔しさを受けいれ、前に進みたい。

 たとえば、島田海吏は2回裏、3点先制した後の1死一、三塁で3球空振りで三振した。ゴロが転がれば併殺崩れでも得点できていた。6回裏2死満塁でも三振し、悔しさをあらわにした。12打席連続無安打である。

 敗戦投手となった湯浅京己は降板直後、ベンチで帽子を脱ぎ捨て悔しがった。速球に合わされ、逆球を打たれ、フォークが浮いた。防御率0点台だったセットアッパーが喫した2敗目だった。

 島田も湯浅も経験の浅い若手である。1軍の勝負の舞台で悔しがれるのは貴重な経験だ。悔恨こそ成長への糧となる。

 「悔しさが野球人としての原点」と星野仙一が語っていた。倉敷商時代、あと一歩で甲子園に出られなかった。出生前に父を亡くしたからか、厳しく、優しい父への思いが強い。ベストファーザー賞の常連だった。

 生前の星野が大会名誉会長を務めた「マスターズ甲子園」の基本理念は「日本の『フィールド・オブ・ドリームス』として」。元高校球児の中年のおっさんが甲子園の夢を追う。この日は母校が予選で奮闘した。悔恨は力だと人生が教えてくれている。=敬称略=(編集委員)

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2022年6月20日のニュース