斎藤佑樹が明かす意外な「あこがれの人」

[ 2008年12月25日 06:00 ]

歴代のリーグ戦優勝額を背に、得意のツーシームの握りで来年の飛躍を誓う早大・斎藤佑樹

 早大というより、大学球界のエースに成長した斎藤佑樹投手。東京六大学野球の4シーズンで18勝をマークし、あと2年間で40勝の大台到達の期待もふくらむ。来年は3年生、文字通りチームの大黒柱となる。50歳までは投げていたいと、太く長くの目標も口にする。お手本とする投手には意外な人の名前を挙げた“佑ちゃん”の大学野球2年間に迫ってみた。

 西東京市の早大・安部寮。練習を終えた斎藤は、さわやかな表情でインタビューの席についた。秋季リーグで7勝をマーク。オフの練習も順調に消化して、充実感が表情に表れている。

 今秋、斎藤が1つの手応えを得た試合がある。10月18日の明大1回戦。中2日ながら8回を5安打1点に抑え、4勝目をマークしたマウンド上でのことだ。連投に近い登板に記者が06年夏の甲子園を持ち出すと「あの時は、覚醒(かくせい)した感じなんです。今は実力で投げている」と話した。

 「実は9月27日の立大戦で、すでに手応えはありました。直球、変化球どれも文句なし。“おっ”と思えた試合です」。4安打無四球で3度目の完封をとげた試合を持ち出した。昨季までは体力強化といえば走るだけ。だが今年は股関節トレも開始。体に柔軟さが生じ、まだ体は進化すると自信が芽生えてきたころ。7月のチェコ(世界大学野球選手権)、8月のブラジルと続いた過酷な遠征後、残る疲労と戦いながら切れ味鋭い球を投げ込めたのも理由の一つだ。 

 ここまで故障もなく、6月6日に20歳を迎えた。「今の若者はやわいなんて子供の頃聞いて“そうはならないぞ”と。木登りもしたし、とにかく外で遊んだ。強くありたい意識が昔からあったのは事実です」と言う。今季9試合で自身最多65回を投げ7勝(1敗)。無理をさせず大事に育てる応武監督に「全然平気です」と返したタフマンのルーツは、そんな負けん気にもあった。

 20歳を迎え、私生活もマスコミに注目される存在。ストレスはあるのだろうか。「ありますよ。僕だって腹立てたり落ち込む時もある。スポーツ紙は信頼していますが、変に勝手なこと書かれると…」。4季連続Vを逃した春季リーグ戦、明大3回戦で打球を右太腿に受け3回1/3で降板。黒星もつく散々な結果に「野球をやめたくなった」とか。

 来季は上級生。入学以来の女房役・細山田に代わる“新妻”は未定。早大連覇への不安材料だが、経験値も含め斎藤が捕手を育てればいい。すでに来年行われるアジア選手権(7月、札幌)、W杯(9月、欧州)といった国際大会に目を向け「高校、大学の枠を超えた日本代表。凄い興味がある」と声を弾ませた。アマチュアの日本代表監督に就任する杉本泰彦氏が“ラブコール”を送るなど、来季はアマ日本代表での雄姿を見られそうだ。

 すでに18勝(5敗)を挙げ、期待は山中正竹氏(法大)のリーグ通算最多の48勝(13敗)、そして江川卓氏(同)の47勝(12敗)超えだ。しかし、そんな外野の声にも「数字より勝率が重要。結果はあとからついてくる」と意に介さない。2年後には国内のプロか、新日本石油ENEOSからRソックス入りした田沢のようにいきなりメジャーかと、また話題の中心になる。「また細山田さんと組むのもありかな」。思わず記者の頭に“佑ちゃん横浜入り?”の言葉が浮かぶことを察したようにニヤリと笑った。

 燃え尽きるまで50歳になっても投げていたいという。お手本とするのは野茂でも岩隈でも松坂でもなく、社会人野球18年目左腕・富士重工の阿部次男投手(36)。「ひそかな目標です。阿部さんがいつまで投げるのか。僕も負けないぞって。あこがれの投手なんです」

 中学時代、実家のある群馬・太田市の同野球部が開催した野球教室に参加。投球時、軸足となるひざの使い方を阿部に教わった。今でもその時のうれしさは忘れない。高校、大学と成長しても、英雄はいつまでも阿部投手なのだ。

 斎藤といえば家族の仲の良さでも有名。リーグ戦には父・寿孝さん(59)、母・しづ子さん(49)、兄の聡仁さん(23)が熱心に足を運ぶ。それこそ20歳。「恥ずかしい。もう見に来ないで」なんて思っているかと思ったら「高校から実家を離れた。活躍して今こそ喜ばせたい。親孝行できない男は結婚しても奥さんを大事にできないですよ」。これには参った。記者を説教するかのように力説する20歳に、思わずこちらの背筋が伸びてしまった。

 将来は親孝行だけではなく自分が育った生品リトルチャンピオンズにも恩返ししたいという。世の中はクリスマスで大騒ぎ。「サンタになって子供たちにプレゼントを持って行きたい」と大興奮。“佑ちゃんサンタ”が実現するころ、どこのマウンドに立っているのか?

 残り4シーズン。すべて優勝すれば六大学史上初の5連覇となる。斎藤の話を聞いていて、そんなことすら小さな目標に思えてきた。

 ≪鉄腕阿部「佑樹の活躍には刺激」≫あこがれの投手と言われた阿部は、斎藤の父・寿孝さんが同社勤務だったこともあり、当時の野球教室の斎藤をよく覚えているという。投球時の体重移動について指導したが、「手を加えるところはほとんどなかった」という。今夏の都市対抗1回戦ではTDK千曲川戦に6回2/3を投げ、大会記録にあと1つと迫る16奪三振をマーク。村田監督が36歳ということも考慮し交代させたが、試合後「記録は知らなかった。悪いことをした」と頭を下げた快投だった。「佑樹の活躍にはこっちも刺激を受ける。僕はあと3年で都市対抗連続出場10年表彰。まだまだ投げます」と力を込めた。

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