泣ける映画「サバカン」 草なぎ剛「今の僕の全ての表現につながってる」

[ 2022年8月26日 07:45 ]

映画「サバカン SABAKAN」で久田孝明を演じる草なぎ剛(C)2022 SABAKAN Film Partners
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 【牧 元一の孤人焦点】公開中の映画「サバカン SABAKAN」は初回より2回目の方が泣けた。取材を離れ純粋に映像を見て物語に没入できたからだろう。そこに描かれた人々をいとおしく思い、胸を揺さぶられた。

 出演した草なぎ剛(48)に話を聞きに行った。質問したいことの一つは、この映画を客観的に見た時、最も泣けたシーンは?だった。

 「久ちゃんがお父ちゃんの胸で泣くところがいちばん来ましたね。その後、お母ちゃんに抱きしめられるところもいい。家族の温かさが最もよく出てる。あのシーンは言葉を超えてる。そんな愛情に凄く感動する。理屈じゃないんだなって思います」

 まだ見ていない人のためにシーンの詳細は記さないが、確かに、その一連の場面は秀逸だ。

 映画は1986年の長崎が舞台。小学5年生の「久ちゃん」こと久田孝明(子役・番家一路)と「竹ちゃん」こと竹本健次(子役・原田琥之佑)のひと夏の物語。草なぎは成長して小説家になった久ちゃんとして、初めと終わりに登場し、語りも務めている。

 「いろんなものが詰まっているんですよね。思春期の誰もが感じるようなことだったり学校での世界観だったり、友情、季節感、自然、年上のお姉さん、初めて経験する感情…。いろんなものに感情移入できる。金沢知樹監督の実体験に基づいているから、リアルに感情が伝わってくるシーンが多くて、知らず知らずのうちに涙が出る」

 映画の原点は金沢監督が書いた小説。実は過去に草なぎが朗読してラジオドラマとして収録されたが、放送されないままだった。

 「小説が本当に良かった。ラジオドラマも手応えがありました。小説が良いから逆にある意味で映像にするのは難しいと思ってたんですけど、結果的にとても良いところに着地しましたね。竹原ピストルさん、尾野真千子ちゃんのお父ちゃん、お母ちゃんによって家族の温かさが際立ってる。海や自然も凄くきれいに撮れてる。実は、出来上がった映画を見てビックリしたんです。ストレートに良い映画ができちゃった。実は、これは挑戦している作品だと思うんですよ。80年代の長崎が舞台で、おとなしめの話じゃないですか?なかなかこんなふうには撮れない。映画好きの人の評価が結構高いんじゃないかと思います。僕も携わることができて良かった」

 物語の中で、成人した久ちゃんは夢だった小説家になったものの、壁にぶつかり、別居中の家族への仕送りもままならない状況に陥っている。演じた草なぎの複雑な表情や悲哀を感じさせる表情もこの映画の見どころの一つだ。

 「僕の役は金沢監督自身なんだと思いました。監督も脚本を書いてきた人なので、頑張って何かを書いても芽が出ない悔しさ、悲しさみたいなものが、監督に演出してもらうたびに僕の中に入って来たんです。監督の物書きとしての姿を感じられたからこそ、リアルなお芝居ができたんじゃないかと思います」

 作品で描かれた1986年、草なぎは小学6年生。翌87年に芸能の道を歩き始めることになる。

 「小学生の頃、僕も久ちゃんのように自転車に乗ってました。生き物が大好きだったので、カブトムシを捕まえに行ったり、釣りに行ったり…。元気な子供だったので、活発に動き回ってました。その頃に感じたことが今の僕の全ての表現につながってる。そこがベースになって僕自身が生きている気がします。良い意味でも悪い意味でも大人になり切れていないというか、友だちと遊んでいたあの頃の延長でこの仕事をしているというか…。80年代に感じたことで今生きているんだなと思います。だから、この映画が響きます」

 同じような感慨にふける人は多いだろう。草なぎと話しているうちに3回目の鑑賞がしたくなった。手元にハンドタオルを用意して。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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