乙武洋匡氏 5日決勝、男子車いすバスケ躍進支える“運動量”と“新旧融合”

[ 2021年9月5日 05:30 ]

車いすバスケのベテラン・香西(右)の存在を、日本躍進の理由の1つに挙げる乙武氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(12)】5年前のリオ大会を現地で取材した。車いすバスケットボール男子、日本対トルコ。体格に勝るトルコに制空権を握られ、49―65の完敗。日本は1勝4敗に終わり、1次リーグで敗退した。そこから5年。前回の世界選手権の王者・英国を下し、きょう5日に行われる決勝に駒を進めた。

 躍進のポイントを3つ挙げたい。1つ目は、京谷和幸ヘッドコーチが掲げる「トランジション・バスケット」の徹底だ。体格に優れる欧米勢を相手にするには、スピードで勝負するしかない。選手たちには攻守の素早い切り替えが求められた。5人の選手が献身的に動き続けることで初めて成立するこの戦術は、とにかく体力を消耗する。だが、世界を相手にするにはこれしかないと信じ抜き、徹底的に走り込んできた選手たちの努力が、大舞台で見事に結実した。

 2つ目は若手の成長だ。リオ大会では、“ダブルエース”と言われた藤本怜央と香西宏昭を抑えられると、途端に攻撃の手数が少なくなってしまっていたが、今大会は違う。古沢拓也や赤石竜我ら、4年前のU―23(23歳以下)選手権で4位に食い込んだメンバーが6人も代表入りしており、戦力の底上げが図られた。なかでも鳥海連志は新エースに名乗りを上げるほどの活躍で、得点源となっている。

 3つ目は海外リーグでプレーしてきたベテラン勢の存在だ。リオでの主力だった藤本と香西は今大会も健在。彼らが長年にわたって培ってきた経験がチームの苦境を救う場面を何度も目にしてきた。ベテランと若手が融合し、かつてないほどの選手層になったことで、日本はこまめな選手交代を繰り返し、終盤に向けた体力温存を図ることができている。準決勝の逆転劇の理由もここにある。

 ロンドン9位、リオ9位。だが、香西はチームの手応えについて、こう語っていた。

 「前回の世界選手権では初めてトルコに勝ち、グループリーグ1位通過を果たした。世界との距離は確実に縮まってきています」

 差を縮めるどころか、一気に頂点を狙える位置にまでたどり着いた。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年9月5日のニュース