「麒麟がくる」チーフ監督が語る“カラフル大河”の裏側 衣装はサッカー代表も参考に 光秀はフランス?

[ 2020年2月15日 08:00 ]

カラフルな衣装が話題を集める大河ドラマ「麒麟がくる」。(上左から)伊藤英明、門脇麦、長谷川博己、川口春奈、谷原章介(下)第1話、野盗を迎え撃つ光秀(長谷川、中央)ら(C)NHK
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 俳優の長谷川博己(42)が主演を務めるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜後8・00)のカラフルな衣装が大きな反響を呼んでいる。チーフ演出を務める大原拓監督のアイデアを、山田洋次監督(88)北野武監督(73)是枝裕和監督(57)ら数々の映画を手掛けてきた衣装デザイナー・黒澤和子氏が具現化した。「明智光秀は青」というように、キャラクターごとに“テーマカラー”が設定されているが、風水の「五行思想の相生相克説」や各国のサッカー代表チームなどがイメージの源泉に。大原監督に衣装作りの舞台裏を聞いた。

 大河ドラマ59作目。第29作「太平記」(1991年)を手掛けた池端俊策氏(74)のオリジナル脚本で、智将・明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生にスポットを当てる。物語は1540年代、まだ多くの英傑たちが「英傑以前」だった時代から始まり、それぞれの誕生を丹念に描く。

 「麒麟がくる」は大河ドラマ史上初の4Kフル撮影。大原監督は「一番大きかったのは4K撮影です。あくまで私の個人的な印象ですが、戦国大河はだいたい色が沈んでいて、キャラクターが埋没している。暗いイメージがあったので、『もう少し派手でもいいのに』と、ずっと感じていました。今回は4K撮影による映像美も売りなので、大河が長年培ってきたものは生かしつつも、新しいことにチャレンジしないといけないと思いました」と“カラフル大河”の着想を振り返った。

 その時、土台になったのが「キャストはもちろんですが、エキストラさんたちも含め、色で空間をつくる」という考え方。「空間として沈んでいたら、いくらキャストが派手でも、結局、今までと同じことで、意味がありません」。これが初回(1月19日)冒頭、野盗に襲われる明智荘の段々畑のシーンにつながった。光秀らのみならず、農民たちもビビッドな色彩の服に身を包み、畑の鮮やかな緑と見事なコントラスト。インターネット上で話題となった。

 「文字通り十人十色、いろいろな人がいるんだから、そこはもっと発想を柔らかくして空間をつくる。『昔は貧しく色が褪せていた』という潜在的意識というか固定観念があるかと思いますが、それは我々現代人の思い込みではないのかと。貧しいから色が褪せる、昔だから色が地味というイメージの脱却を図るとともに、視聴者の皆さんがアッと驚く映像空間にしたかったんです」

 そして、資料を調べるうちに、風水の「五行思想」が浮かび上がった。古代中国にルーツを持つ思想で、万物は5つの元素(木、火、土、金、水)から成り立ち、それぞれ影響し合っているというもの。
 「木」は木の花や葉が幹の上を覆っている立木がもとで、色は青。「火」は炎がもとで、色は赤。「土」は植物の芽が地中から出てくる様子がもとで、色は黄。「金」は土中に光り輝く鉱物・金属がもとで、色は白。「水」は泉から湧き、流れる水がもとで、色は黒。

 大原監督は「明智家の家紋は水色桔梗で、光秀というと、だいたい水色のイメージ。青は『木』の元素を示す色で、『木』は樹木の成長を表します」。光秀の成長を描く物語に、成長の象徴・青がハマるとひらめいた。黄は織田信長、白は豊臣秀吉、黒は斎藤道三、赤は徳川家康と「五行思想」から“テーマカラー”が生まれた。

 黒澤氏も「文献や現存している当時のものを見ると分かるのですが、戦国時代は日本の歴史の中でも、とても派手な色が使われていた時代。オスの孔雀がカラフルな羽を広げて自分をアピールするように、戦国の武将たちも原色など派手な色彩を好み、自分たちをアピールしていました」と語っているように、大原監督の“カラフル構想”と合致。

 大原監督が「あくまで参考アイデア」として「光秀=青」の“テーマカラー”を黒澤氏に伝えると「かなりおもしろがっていただきました」。黒澤氏の流儀は「私は監督の頭の中にあるものを再現するだけ。黒子なんです」。大原監督のアイデアを具現化した。

 チーフ演出を担当する時、大原監督はスタッフとのイメージ共有のため、独自の“キャラクター表”を作成している。今回は例えば、こうだ。

 「明智光秀…文武両道。これまで描かれなかった武のイメージをより前面に出したい。冷徹な策略家でなく、生来の優しさや勇敢さ、気高さがある。気高さは高貴で取っ付きにくいものではない。行動力があるが、猪突猛進とならない客観力がある。青年期で重要なことは、何者でもない!フランス的。イメージカラー:ブルー系(知的であるが、冷徹な方向にならない色味、グラデーションなどもあるのか)、夏的ブルー、陽に」

 「美術デザイン部、メイク部、かつら部、衣装部、装飾部など、美術スタッフみんなに配ります。キャラクターのイメージを共有してもらって、それを基に、メイクならメイク、それぞれの分野でキャラクターを構築してもらうためです」

 光秀のキャラクター表にある「フランス的」は、サッカー好きの大原監督の“遊び心”。各国のサッカー代表からイメージを広げてもらうのが狙いで「硬い文章だけだと、おもしろくないので。例えば、帰蝶だとクロアチア。クロアチアは美しい方が多いので“高嶺の花感”を共有できればと。黒澤さんにもお渡しして。例えば、将軍奉公衆・三淵藤英(谷原章介)だと昔のドイツ代表のアウェイユニフォームのグリーンとお伝えして、色やデザイン・柄のイメージを膨らませていただきました。黒澤さんも戦国時代は派手というお考えだったので、その部分で共通認識が持てたのは今回、大きかったと思います」

 黒澤氏が製作した衣装の出来栄えに、大原監督は「こんな生地を使うんだ」と驚き。「当時は値段が安い麻が主流なんですが、黒澤さんは別珍(ベッチン)などもお使いになって。別珍はコーデュロイみたいなものですが、薄い麻と違い、立体的に厚みが出ます。4K撮影だと、服の素材感も確実に映すことができるので、奥行きが出るんです。色やデザイン・柄だけじゃなく、素材感まで計算されていて、さすがだな~と、私が刺激を受けました。色も単純に1色だけじゃなく、グラデーションにこだわっていただいて。例えば、斎藤高政(義龍)(伊藤英明)の衣装は赤茶からグラデーションして、オレンジがかっていたり。人物像を豊かにしてくれる要素だと思います」と脱帽した。

 若かりし光秀がまとう衣装の色は明るい青と緑が中心。「イメージは伸び続ける竹。生命力、躍動感を出したいと思いました」。中盤からは「少し落ち着いた感じ」に変化し「さらに変えていこうかと考えています」。キャラクターの成長に伴う衣装の“変遷”にも目を凝らしたい。

 ◆大原 拓 1996年NHK入局。津放送局を経て、2000年からドラマ番組部。16年前期の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、17年の土曜時代ドラマ「悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~」などのチーフ演出を担当。過去に演出した大河ドラマは、演出デビュー作となった03年「武蔵 MUSASHI」、06年「功名が辻」、14年「軍師官兵衛」。大河ドラマのチーフ演出を務めるのは今回が初となった。

 ◆黒澤 和子 1954年(昭29)生まれ、東京都出身。父・黒澤明監督の進言で映画界へ。映画「夢」から黒澤組の衣装を担当。映画「八月の狂詩曲」「まあだだよ」「たそがれ清兵衛」「座頭市」「武士の一分」「アウトレイジ」「万引き家族」などの衣装デザインを手掛ける。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、大河ドラマ「西郷どん」の衣装も担当した。

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