「直虎」怪演の昇太 しゃべらぬ理由 止まらぬ“義元愛”運命的な配役
NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(日曜後8・00)で、主人公・次郎法師(のちの井伊直虎)(柴咲コウ)ら井伊家を支配下に置く戦国大名・今川義元を好演している落語家の春風亭昇太(57)。側近に耳打ちしてセリフを一切発さない“無言の怪演”は「怖すぎる」「噺家なのにしゃべらない」などと放送開始当初から話題となっているが、制作統括の岡本幸江チーフ・プロデューサーは「眼鏡の奥に隠された鋭い眼光を生かすため、しゃべらないという表現方法をとった」と意図を明かす。しゃべらないにもかかわらず、絶大な存在感を発揮している昇太は「子どもの頃から今川ファンだった」と告白。夢見心地で憧れの武将を演じていることを明かした。
駿河・遠江から三河・尾張まで勢力を拡大するなど領地経営に才覚を発揮し“海道一の弓取り”の異名で知られる義元。静岡県出身の昇太にとって、義元は子どもの頃から憧れの戦国武将だった。
「義元になることができて、ものすごくうれしかったです。冗談で『今川義元をやりたい』とずっと言っていたんですよ。まさか現実になるとは思いませんでした。衣装を着て、自撮り写真を撮りまくりました。夢のようで、うれしくて」
義元といえば、やはり桶狭間の戦いで織田信長に敗れた武将という印象が強い。だが「織田信長は日本人が好きなヒーローのベスト3に入るような人。その人をヒーローにするためには、引き立て役のような人が必要なんですよ。それに打ってつけの人物が今川義元で、“公家好みの軟弱な戦国大名”みたいな扱われ方をずっとされているんです」と昇太は力説する。「ドラマや映画のイメージを引きずってダメ大名みたいな扱いを受けていますが、領土経営でも先進的なことをやっていました。常識で考えれば駿河、遠州、三河にも進出した戦国大名が軟弱なわけがないんですよ」と義元に対する世間の評価に異を唱える。
さらに「今川家の五男だから家督相続においては遠い位置にある人で、お坊さんとして修業をしていたんです。後にお兄さんに呼ばれて駿河に戻るんですけど、同じ日にお兄さんが2人死んでいるんですよ。しかも、その後にもう1人のお兄さんを打ち滅ぼして家督を自分のものにしている。そういうところを見ても相当な経験を積んでいる戦国大名ですよね」と解説。「桶狭間の一戦だけで評価されるのはかわいそうです。討たれる前も斬りかかってきた相手を1人斬り、討たれながらも相手の指をかみ切るという壮絶な死に方をしています。こんなことを言っても仕方ありませんが、戦場で散った今川義元と、家来にだまし討ちにあった織田信長とどちらが武将らしいかと言えば、義元の方が武将らしいと思うんですよね。戦国大名の中では最も誤解を受けている人だと思っています」と“義元愛”は止まらない。
「昇太さんが静岡のまさに地元地区のご出身であるということだけは存じ上げていたのですが、ご自身で家紋がついた羽織を持っているまでの今川ファンだとは知りませんでした」と語るのは岡本プロデューサー。「正しい方にオファーできた、出会えた、と感じています」と運命的なキャスティングを喜ぶ。
また、全くしゃべらないことが話題となっている今作の義元について「あまりしゃべらない方が権威のある人物としては格好良いかなという話はもともとありましたが、配役が昇太さんに決まってからセリフを削りました。やはり普段と違う感じが良いと思いまして」と説明。「昇太さんを象徴しているのは眼鏡ですよね。あれで場がすごく和みますけど、ご本人は非常に眼光の鋭い方なんです。この目を生かすのはしゃべらないことが演出上の方法かなと思いました」と“無言の演技”が誕生した経緯を明かし「本当に素晴らしい存在感を出してくださいました」と絶賛した。
「最初はセリフがなくて楽だなと思っていました」と撮影前はセリフのない演技を楽観視していたという昇太。「そうしたら、それはとんでもない話で、セリフを言わずに芝居をすることはこんなに大変なのかと思いましたね。セリフを話していると自分がどういう顔をしているか分かりますが、しゃべっていないと自分がどのくらいの表情をしているのか分からないんですよ。撮った映像を見る度にガッカリしていましたね。これで良かったのかな…とか思ったりして」と苦労を振り返った。
5日放送の第9回「桶狭間に死す」で、ついに義元が織田信長と激突。今川軍は圧倒的な勢力を誇りながらも織田軍に敗れることになる。“無言の演技”でお茶の間を震え上がらせた義元の最期とは――。
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