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[ 2010年1月25日 06:00 ]

第1幕 性悪なスカルピアは神への祈りをバックに邪心を歌い上げる(ジョン・ルンドグレン/新国立劇場合唱団)
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 第1幕、スカルピアがトスカに、恋人カヴァラドッシ(カルロ・ヴェントレ)の浮気をほのめかすべく奸計を練っている場面。「ヤーゴはハンカチを使った。私は扇子を使おう!」というスカルピアのセリフ。ヴェルディの歌劇「オテロ」の悪役ヤーゴを意識しているのですが、スカルピアの性悪ぶりはヤーゴを凌駕しているように思えました。私に言わせれば、スカルピアに比べヤーゴなんて甘っちょろい。スカルピアのように天使のような顔をした悪魔が、最も悪い奴なのです。「私は自分が目をつけた女を追いかけ、むしゃぶっては捨て、新しい獲物を得たい」と、スカルピアは観客に向かって猛獣のような本性を告白してみせます。そのくせ、平然とトスカの手をとってエスコートする。第2幕では、カヴァラドッシを投獄しておきながら、「どうやってカヴァラドッシを助けるか、美味しいスペインのワインでも飲みながら考えよう」と、トスカに笑みを浮かべてグラスを差し出すのです。スカルピアが悪いことをする場面より、涼しい顔をしているシーンにこそ、ジリジリさせられるのです。

 第1幕のラスト。パイプオルガンが鳴り響く中、教会のセットが音もなく左右に開き、奥から祭壇が登場。そこに民衆(合唱団)が入ってきて、荘厳なテ・デウム(聖歌)が歌い上げられます。「天にまします御身を我ら称え、主にまします御身を賛美し奉る」と祈る合唱に続き、スカルピアは「トスカ、私に神をも忘れさせる。永遠の御父よ。全地は御身を拝み奉る」と歌います。金管楽器や打楽器がフォルティシモで鳴り轟く中、幕が降ります。なんという罰当たりなスカルピア!神聖な場で、自らの邪悪な心を露にするとは。スカルピアにもあっけに取られましたが、プッチーニの、スカルピアにも負けない大胆不敵さに強いインパクトを受けました。

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2010年1月25日のニュース