[ 2010年1月25日 06:00 ]

第2幕トスカ(イアーノ・タマー)はスカルピアの死体の下からスカーフをスルリと抜き取る

 トスカがスカルピアを刺し、自分の手についた血を拭き取り、通行証を奪う。静かな音楽の中、冷たくなっていくスカルピアの胸に十字架を捧げる。と、その時、トランペットとスネア・ドラムが、警報のようにけたたましく鳴り響きます。「ああ、誰かに見つかっちゃう!トスカ、早く逃げないと」。しかし、トスカのスカーフが死体の下敷きになっているでありませんか。トスカがスルリとスカーフを抜き取ると、幕もスルリと降ろされる…。不気味なまでに張り詰めた静寂を見事に表現したプッチーニの音楽と台本作家ジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イリッカによる巧みな仕掛けにより、このとき私はすでに、トスカの殺人の見張りをする“共犯者”として、自分が観客であることを忘れていたのです。

 それにしても、スカルピアは相当サディスティックですが、トスカも負けていません。ナイフで刺しながら「これがトスカのキスよ」「血で息苦しいのね」「死んだわ。今なら赦してあげる」と、虫の息で助けを乞うスカルピアに言うのですから。脳天気なのは、カヴァラドッシくらいです。「殺人を犯した君の手も、まだ清らかなままだ」と、牢屋でトスカを抱きしめる。なにより私が歌劇「トスカ」を気に入ったのは、この登場人物たちの恐るべきキャラの濃さなのであります。

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2010年1月25日のニュース