イニング&球数制限にもかかわらずケガをする先発投手は大幅に増加「誰も正しい答えは持っていない」

[ 2023年9月3日 18:00 ]

 ナショナルズのストラスバーグ(AP)
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 スポーツイラストレイテッド誌のトム・ベデューチ記者が先発投手の肩肘を守るために、近年のメジャーでは育成の時点から、イニング&球数制限を徹底しているのに、逆に負傷者リスト入りする投手の数は15年の73人から23年は170人前後と大幅に増えていると指摘している。

 投手の投げすぎがメジャーで特に問題視されるようになったのは、カブスのマーク・プライアー(02年から06年)、ケリー・ウッド(98年から12年)の故障が大きい。03年カブスはナ・リーグ優勝決定シリーズに勝ち進んだが、当時22歳のプライアーは9月、10月に1試合平均125球を投げ、26歳のウッドは118・3球を投げた。ウッドについてはカブスにドラフト指名された日、高校のプレーオフのダブルヘッダーで2試合とも先発し177球を投げたこともあった。2人ともメジャーで大スターになると期待されていたのに、相次ぐ故障に悩まされ大成できなかった。

 この失敗から、MLB関係者は若い投手の投げすぎを危険視するようになった。大騒ぎになったのは12年、ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグ投手の「シャットダウン」だった。そのシーズン同チームは地区優勝争いをしていて、23歳のストラスバーグは15勝6敗、防御率3・16の大活躍だったのに、トミージョン手術(肘側副靱帯再建術)からの復帰1年目だったため、9月7日の登板でシーズンにピリオドを打ち、賛否両論となった。

 ナショナルズはポストシーズンに勝ち進んだが、地区シリーズでカージナルスに2勝3敗で敗れ世界一にはなれなかった。投手の肩は消耗品という考えが、当時からさらに浸透し、1試合130球以上、120球以上投げないのはもちろんのこと、ドラフト選手の育成方法から変っていった。例えば11年にプロ入りしたアスレチックスのソニー・グレイは最初の2年間マイナーで334・1イニング、1試合平均5・67イニングを投げ、1試合に90球以上投げたことは30度あった。ところが21年にプロ入りしたカブスのジョーダン・ウィックスは2年間で195・3イニング、試合平均4・34イニングで、90球以上は0試合だった。

 ドジャースは16年のドラフト指名選手トニー・ゴンソリン、ダスティン・メイを育成するにあたり、一度も試合で百球以上を投げさせなかった。これがメジャーのトレンドとなったため、近年25歳か、それ以下の投手が長いイニングを投げる試合は著しく減った。2千年シーズン、25歳か、それ以下の投手が先発で110球以上投げた試合は4百試合あったが、2020年以降はほとんどなくなった。だからシーズン規定投球回数に達する若手投手の数も、21年は3人、22年は6人である。先日パイレーツの25歳、ヨハン・オビエドが112球で完投したが、これは21年のシェーン・ビーバー以来だ。ちなみに今から12年前には17度あり、そのうち4度がドジャースのクレイトン・カーショーだった。

 ところがそれだけ制限を設け大事に育てているのに、ケガはむしろ増えている。15年先発投手の負傷者リスト入りは73件だったのに、21年は179件、22年は169件、今季は173件ペースである。それによって無駄にしたサラリーは15年が1億9800万ドルだったのが、21年は3億1700万ドル、22年は3億2300万ドル、23年は4億5百万ドルに達する見込みだ。育成時、百球以上投げさせなかったゴンソリンとメイも2人ともトミージョン手術を受けてる羽目になった。2人合わせてもプロで百球以上投げた試合は1試合だが、ひじの手術の回数は3回である。12年にシャットダウンしたストラスバーグはトータルで17年総額3憶5500万ドルの契約に恵まれたが、規定投球回数に達したのは4シーズンのみ、契約を全うできず、先日35歳で引退を発表した。

 だからイニング&球数制限を徹底すればケガを減るかというと、そんな単純なものではない。それでも大事、大事に育てている。興味深いのは9月のペナントレースだ。マーリンズのエウリー・ぺレス、オリオールズのグレイソン・ロドリゲス、レッズのグラハム・アシュクラフトとアンドリュー・アボット、ブレーブスのブライス・エルダー、ガーディアンズのガビン・ウィリアムスなど、優勝争いをするチームに新人たちがいる。今後彼らにどこまで投げさせるかだ。

 特にオリオールズの23歳のロドリゲスは8月は絶好調で5試合で2勝1敗、防御率2・64だった。しかし今季、マイナー含めて既に26試合に先発、134・1イニングを投げた。自己最多よりも3試合、31・1イニングも多い。6人のローテーションで回しているとはいえ、このペースで行くと30試合、160イニングに達してしまう。その上でポストシーズンの起用はどうするのか?若い投手のイニングはどれくらいまで増やしてよいのかと尋ねられたオリオールズのブランドン・ハイド監督は「ケースバイケースだ。デリケートな質問で、誰も正しい答えは持っていない」と返事している。現場の監督は試合に勝つのが仕事だから当然、良い投手にはたくさん投げてもらいたい。だが故障も怖い。11年前、ストラスバーグはシャットダウンでナショナルズも世界一になれなかったが、19年にその夢は果たした。誰も正しい答えは持っていないのである。

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