【内田雅也の追球】「努力逆転」の慎重 西勇の“考えすぎ”が招いた2死からの5失点

[ 2022年6月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―6DeNA ( 2022年6月28日    横浜 )

6回、大和に適時打を打たれた西勇
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 「努力逆転の法則」を教わったのは高校時代の生物の授業だった。東大出でクモの研究家だったY先生は言った。「一生懸命こうしよう、こうしなければ……と思うと反対の結果になる」

 20世紀初め、フランスの自己暗示法の創設者、エミール・クーエが唱えた法則らしい。「想像力と意志力が敵対すれば、例外なく想像力が勝つ」「意思の力で努力すればするほど想像力は強力となり、その意思の努力とは反対の結果となる」

 この夜、6回途中6失点で降板となった阪神先発・西勇輝も努力が反対の結果となって出た。

 2―0の3回裏2死二、三塁、代打・桑原将志のカウントが1ボール1ストライクとなり、投手板を外した。両手で内角高め、低め、外角高め、低めと狙いを定めるしぐさをした。珍しい光景だがコースに投げ分けるイメージを描いていたのだろう。間(ま)をとって投げたシュートはしかし真ん中に入り、中越えの2点二塁打を浴びた。

 5回裏にネフタリ・ソトの風に乗った不運なソロを浴び2―3となった6回裏、牧秀悟を大きな右飛に取り、2死二塁となって内野陣がマウンドに集まった。強打者を打ち取った直後で気を抜かぬよう、慎重さがうかがえた。迎えた宮崎敏郎を申告敬遠し、またタイムを取り、梅野隆太郎がマウンドに歩んだ。慎重にも慎重を期して大和に対したがチェンジアップが真ん中に入り、中前適時打を浴びたのだ。

 投手の失敗の要因について、心理学者マイク・スタドラーが<考えすぎ以外にも“考える”ことが問題を引き起こす場合があります>と『一球の心理学』(ダイヤモンド社)に記している。<一つが“○○してはいけない”という考えです>。

 思慮深い西勇は“失投してはいけない”と考えるあまり、失投を重ねたのかもしれない。

 3回裏にピンチを背負うことになる下位打者に浴びた連続短長打は2ストライク後という悔恨があった。本塁さえ許さなければ……という慎重さがアダとなったか。ソトの一発以外5失点はすべて2死からだった。

 Y先生を思う。模試でE判定(志望校の変更を要す)が出ても「Eはイーんです」と駄じゃれで受験生を励ましてくれた。大丈夫。努力はいつか報われる。=敬称略=(編集委員)

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