【内田雅也の追球】キューバが求めた「答え」 弱点突き、全員でキューバ投手を攻略した阪神

[ 2021年5月14日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2ー1中日 ( 2021年5月13日    甲子園 )

<神・中(8)> 7回2死一塁、代走・熊谷は二盗を決める(撮影・大森 寛明)
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 同点を呼んだ阪神・熊谷敬宥の勇気と技術、そして走力は素晴らしかった。1点を追う7回裏2死から代走で出て二盗、同点生還は11日のまさに再現だった。

 この夜は先に2度、盗塁失敗があり、流れを止めていた。3回裏2死一塁で糸原健斗、5回裏無死一塁では梅野隆太郎が二盗で憤死している。

 仕掛けたくなるのは分かる。中日右腕、ジャリエル・ロドリゲスはクイック投法が苦手だ。手もとの計測で投球タイムは1秒21~36。合格点とされる1秒2を切った投球は1球もなかった。

 糸原憤死時は1秒34、梅野の時は1秒25。ともにスタートはまずまずだが、盗塁阻止率リーグ首位の捕手・木下拓哉の送球にやられた。それでもベンチも熊谷もひるまなかった。監督・矢野燿大が言う「超積極的」の真骨頂である。熊谷盗塁時は1秒36だった。

 ロドリゲスはキューバ出身である。2019年11月、プレミア12での好投を見た中日監督・与田剛が興味を持ち、球団がキューバ政府を通じて獲得した。速球は150キロを超え、縦横のスライダーにスプリッターがある難敵だった。

 キューバ投手らしく時折、横手から投げる。国際大会で活躍したペドロ・ラソや亡命し大リーグ入りしたオーランド・ヘルナンデスら多くの投手が用いていたのを思い出す。スポーツ専門学校、エイデ(EIDE)などで教えているだろうか。

 決勝弾のジェリー・サンズも前の打席では横手からのスライダーに見逃し三振に倒れていた。

 剛球に押され、変幻投法に戸惑って6回まで無得点と封じられた。わずかな隙と弱点を突いて、同点に持ち込んだのだ。

 2009年3月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が連覇した際、野球好きで知られた国家評議会議長、フィデル・カストロはかつて世界最強を誇ったキューバ代表に「適切なレッスンが必要」「革命を起こさねばならない」と叱咤(しった)し「日本に学ぶべきだ」とたたえた。「体の小さな彼らがどうやって人間的能力を高めたのか」

 「人間的」という点での答えが今の阪神野球にある。失敗はしたが糸原も梅野も走り、代打で出た原口文仁はよく選球し……と、全員でロドリゲス攻略に向かっていた。

 元キューバ代表監督でキューバ野球連盟会長も務めたイヒニオ・ベレスも口癖のように語っていた。「チームはノンブレではなく、オンブレが集まってできている」

 スペイン語でノンブレは名前、オンブレは人間を意味し、韻を踏んでいる。個人よりチームを重んじ、何より人間集団であることを強調している。問題は実践できるかどうかだろう。

 快勝劇の後、矢野はインタビューで、これまで何度も繰り返してきた3項目、「超積極的」「あきらめない」「全員で戦う」という姿勢を口にしていた。=敬称略=(編集委員)

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2021年5月14日のニュース