竜蔵が行く ZOZOマリンに肘井の打球を見に行こう

[ 2017年2月14日 09:30 ]

ロッテ石垣島キャンプ、声と笑顔でナインを引っ張る肘井竜蔵選手
Photo By スポニチ

 【長久保豊の撮ってもいい?話】八重山ブルーの空に白球が溶けて行く。ロッテ・肘井竜蔵選手の打球は何時見ても、何度見ても美しい。

 「『試合で見せてくれよ』と言われるんですけどね」。早出特打のゲージから出た彼は汗を拭いながら人懐っこい笑顔を見せた。

 プロ4年目。一軍での出場は14試合、二塁打2本。昨季は「ボクがベンチに入ってから連勝ですね」と肘井不敗伝説を訴えたが首脳陣やナイン、そして報道陣からも「そういえばそうだね」と棒読みの反応が返ってきただけだった。

 これまで彼にまつわる「ヤバイ」話を2回聞いた。ルーキーイヤーの2014年春。二軍から上がってきた選手から「あいつの打球はヤバイっすよ。18歳の打球じゃない」という話を聞いた。ヤバイ打球って?

 とにかくグイ〜ンと飛んでいく。落下地点近くでスッと5メートルほども伸びる感覚。打たれた球が悲鳴を上げるほども引っ叩いているわけではない。胸のすくような気持ちのよい打球を飛ばすというのだ。

 もう1つは2015年秋のこと。「あいつヤバイです」。球団関係者から聞いた話は深刻なものだった。イースタンリーグで受けた顔面死球、絶対安静で1カ月近くをベッドで過ごした。ファンや関係者に元気になった姿を見せたかったのだろう。11月のファン感謝デーでは腫れが引いたばかりの顔で懸命に笑った。その姿にカメラを構えるこちらが切なくなった。

 犬っぽい性格。人懐こさもさることながら、外野でノックを受けるさまはまさしくそれだ。うずうずしながらボールを追って、捕手への返球が決まった際にはほめてくれと言わんばかりのガッツポーズ。「おまえ、アピールの意味を間違ってるぞ」とコーチが叫べば見守るファンからは爆笑が起きる。それが一度、打撃ケージに入れば打球の軌道でファンの心を奪う。

 見守る人々にとっては「絶対、出てくる選手」であり「育てた感」がある選手だ。

 明治安田生命の「理想の上司」アンケート。番外編の「理想の新入社員」では日本ハム・大谷翔平選手が1位になったそうだ。実力に加え謙虚さが評価されたということ。だが冷静に考えてみよう。あんな怪物を抱えた直属上司の立場を。ましてや自分の上司がイチロー(理想の上司・総合6位、スポーツ選手・監督部門1位)だったとしたら。中間管理職は心も体も3日と持ちませんぜ。

 「オレ的、部下にしたい男」1位の肘井竜蔵はきょうも八重山の土にまみれている。きっと出てくる選手から、出てこなくてはいけない選手へと周囲の視線も変わるからそれも当然。青い空もいいが今年こそZOZOマリンの茜の空に放物線を描いてくれると思う。そのためにつらくても苦しくても、取りあえず笑っちゃう。そういうヤツは好きだな。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれのカメラマン。映画「兵隊やくざ」の「星(階級)の数より飯(勤務年数)の数」という有田上等兵の言葉が大好き。会社は年下上司ばかりだが、それが何か?

続きを表示

この記事のフォト

2017年2月14日のニュース