【内田雅也の追球】阪神“コーヒー1杯組”の真価が問われる来季

[ 2016年9月11日 08:20 ]

<ヤ・神>初回2死、雄平の左中間への打球を板山(左)が落球

セ・リーグ 阪神1―9ヤクルト

(9月10日 神宮)
 メジャーリーグに「ワン・カップ・オブ・コーヒー」という言い方がある。同名の映画もあるほどで、俗語としてよく使われる表現だ。

 9月になると、アクティブ・ロースター(ベンチ入り枠)が25人から40人に拡大される。マイナーから入れ代わり立ち代わり、多くの選手が昇格する。主に明日のメジャーリーガーを夢見る若手選手である。

 「ワン・カップ――」はこの9月以降に「1杯のコーヒーを味わう短い期間だけメジャーリーグにいた選手」という意味である。いわば「コーヒー1杯組」である。

 日本のプロ野球には、この手の門戸開放ルールはないが、同様の措置は取られている。優勝の望みがなくなったチームは来季に向けて、主に若手選手たちを試験的に1軍で登用する。

 阪神は、もうクライマックスシリーズ(CS)進出、3位の可能性がほとんどなくなった。目の前の勝利よりも、来季を見据えた育成への力点が強くなる状況にある。

 この日は新人・板山祐太郎が1軍登録された。先発7番で6月1日以来3カ月ぶりの1軍出場を果たした。1回裏の守備で左中間飛球を落球(失策)した後、2回表の打席で中前打を放った。

 岩田稔も4月27日以来4カ月半ぶりの1軍復帰だった。不調続きだったベテランも来季に向けて試される立場なのだ。7回裏に登板が回ってきたが制球も球威も欠いて、4失点と試合を壊した。

 ただ、新監督・金本知憲を迎え、「超変革」の旗印を掲げた今季は、春先から若手を登用し続けたシーズンだった。1軍のコーヒーを何杯も飲んだ若手が数多くいる。問題は、うまいコーヒーの味を忘れず、1軍に定着できるかである。

 その点、選手も首脳陣も、真価が問われるのは来季である。その勝負がもう始まっている。

 試合の妙味は薄かった。山田哲人のアーチ3発に阪神ファンからも歓声があがったほどだ。神宮から直線距離で5キロ余り、東京ドームの熱気にはほど遠い。それでも、なぜか入場券は完売の超満員、観衆発表は3万を超えた。CS争いを見込んで前売り券を買っていた人びとだろうか。

 試合後、神宮記者席のテレビで広島の優勝を観た。美しい涙にあふれていた。敗者として、まずは敗戦を認め、勝者をたたえたい。明日に向け、この悔恨の夜を忘れてはいけない。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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2016年9月11日のニュース