【野球のツボ】コケてない…体を張った「決死のストップ」

[ 2013年3月13日 11:13 ]

日本の窮地を救った、台湾戦での鳥谷の「決死の盗塁」

 WBC日本代表は4強入りを果たし、12日のオランダ戦後にチャーター機でアメリカに向かった。空港でこのレポートをまとめている。「みんなでアメリカに行こう」。チーム発足からの合言葉がついに実った形での出発だ。1球1球、息を抜くことができない国際試合の緊張感。激闘の記憶が次から次へと頭の中に浮かぶ。

 やはり忘れられないのは4時間37分の死闘となった台湾戦だ。あの試合をもし落としていたら、1位突破どころか、アメリカ行きもなくなっていたのではないかと思う。総力戦でつかんだ白星は、チームにとって大きな大きな転機となった。

 最大のポイントとなったプレーは1点を追う9回2死一塁からの鳥谷の盗塁成功だ。アウトになったら終わり。普通なら走らせないし、走れない場面。「相手のクイックは速くない」ということがインプットされていた鳥谷は、さらに1球けん制が入ったことで、「続けてのけん制はもうない」とスタートを決断したと、本人から聞いた。日本なら続けてのけん制も警戒するが、そこまで緻密なチームは外国にはない。鳥谷の野球センスが、あの発想を可能にした。

 緊迫した局面で、走れる理由を見い出し、実行した。このプレーが井端の同点打を引き出したのは言うまでもない。この連載の読者の方なら、大会前に鳥谷のスピードがポイントと指摘していたことを覚えておられると思う。期待以上の働きを見せた鳥谷は、阪神の人気選手から球界を代表する一流に飛躍する。そんな気がしてならない。

 さて、鳥谷のが「決死の盗塁」なら、私もこの試合で「決死のストップ」をかけていた。4回2死二塁。坂本の当たりは外野に抜けるかと思われたが、遊撃手がダイビングで止めた。スタートを切っていた走者・糸井は「抜けた」と思い、トップスピードで本塁を狙った。遊撃が止めたところで、止めなければならないと私は判断。だが、糸井は目線を下にして加速を図っている。本塁でもアウト、大きくオーバーランしてもアウト。糸井の視界に私から入らなければいけない。とっさの判断で寝ころびながらストップをかけた。判断ミスで試合の流れを変えてはいけない。私が勢い余ってコケたように見えたかもしれないが、三塁ベースコーチとして体を張った結果だったのだ。

 コールド勝ちでベスト4を決めたオランダ戦の前に、阿部が円陣で「高代コーチのように体を大きく使っていきましょう」と声出しをして、選手の緊張感をほぐしてくれた。この試合での6本塁打は体を大きく使った結果かもしれない。ともかく頂点まで、あと2試合。野球のきめ細かいところと、投手陣全体のレベルでは、見劣りはしない。プレッシャーの中で勝ち抜いたことを自信として、あと2試合。選手が全力で戦ってくれると信じている。(WBCコーチ・高代 延博)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務める。浩二ジャパンの頭脳。

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