神戸製鋼VS日本代表は実現せず――  強さの継承には平尾誠二が必要だった――

[ 2024年2月2日 19:05 ]

ラグビーレジェンド対談
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 元ラグビー日本代表の大八木淳史氏(62)がゲストを招いてトークする「レジェンド対談」。第3弾は大八木氏の元同僚で、神戸製鋼ラグビー部(現コベルコ神戸スティーラーズ)のスタンドオフ、スクラムハーフとして活躍し、7連覇に導いた藪木宏之氏(57)です。第4回は「日本ラグビー選手 育成問題斬る――」(対談映像はYouTube「スポニチチャンネル」で配信中です) 対談動画はこちらから

 大八木氏(以下大八木) 第2回ワールドカップ(1991年)が終わって、亀高さんに呼ばれて、「もうええやろ、日本代表は」という感じやったからね。今でこそ許されないけど、当時は神戸製鋼の社員なんやから、言っていることは正しいやん。「神戸製鋼の社員としては連覇の方が大事なんとちゃうの」と言われてね。「(日本代表を)辞退しろ」と言われたからね。平尾とオレと呼ばれてね。まあええかぁ、30歳で30キャップでええわと思って(日本代表)は辞退することになってね。

 当時、今でも覚えてる。日本ラグビー協会はアマチュアには厳しかったけど、神戸製鋼と日本代表が試合することになっていたの知ってる?
 日本代表の神戸製鋼の選手はスティーラーズで出場してね。
 日本代表が「絶対負ける」と言ってやらなかった。

 藪木氏(以下藪木) 9月の20何日かに、試合日程まで決まっていたと聞いていますね。

 大八木 やっていたら、どうなっていたんやろな。

 藪木 やりたかったですけどね。

 大八木 (スティーラーズが)勝っていたら、すべての協会のことが変わっていたやろな。神戸製鋼一色になっていたやろな。
 今はラグビーのスタイルもルールも変わってきた。組織も変わってきた。1988年、宣伝部にいた時にスティーラーズのロゴも作製した。
 「Bodies of Steel, Hearts of Gold. We call Them “Steelers”」
 も考えた。
 じゃあラグビー協会から「なんでスティーラーズ」なんやといちゃもんをつけられた。「神戸製鋼にせえ」と。
 で、言ったんよ。「NHKでもし阪神タイガースと読売ジャイアンツと放送したら、阪神、読売とは言いにくいのとちゃいますか。タイガースとジャイアンツとちゃうのと。だからニックネームを付けたらいいのとちゃうの。それが本当のアマチュアじゃないの」と。
 じゃあ「お前、うまいこと言うな」と言われたのを覚えている。そこから他チームもマネしていった。

 藪木 チームの強化方針がどうなのかとOBとしては思います。外国人が良ければ。ダン・カーターが来たときは勝ちました。今回みたいにブロディ・レタリック、アーディ・サベアが来てナニ・ラウマペがセンターに入る。(全員)オールブラックスなんです。彼らが活躍するとチームは強い。じゃあ、彼らがいなくなったらチームからいなくなったら、また弱くなるの。この繰り返しじゃ、かつてやっていたスティーラーズのチームはないのかな。
 大八木 日本全体のチームがそうなん?

 藪木 そういうのもありますけど。私は個人的に、他のチームはともかく、神戸製鋼しか実情を知らないので、神戸は私たちの時代の7連覇もあった。先輩たちの苦労があって。初優勝から7連覇があって、その継承が残っていて欲しいなあとは個人的に思います。

 大八木 残っていない状況かな。そう思うと平尾誠二の存在ってある意味大きいよな。

 藪木 大きかったですね。

 大八木 あいつの感性とか感覚というのは、ワールドが(平尾を)欲しかったのもそうやもんね。それを重厚長大な神戸製鋼に入って。ギリギリのところで精一杯やって。もちろん強いからリーダーシップを取れた部分も当然ある。
 今の神戸製鋼スティーラーズ、今の日本全体のラグビーがそうなんやろうけど、ちょっと違うなという話なんやね。
 
 藪木 OBなんで厳しい意見が多くなりますけれど、神戸というよりはスティーラーズという言葉を使って欲しいなと思います。

 大八木 さすが、(言葉に)重みがあるな。
 繰り返すけど、大西一平がキャプテンで、イアン・ウィリアムスもいて、V4、V5、V6は強かったんやね。

 藪木 強かったですね。いい選手が大学から入って来て、競争の原理がしっかりできていて、誰が出ても強い、勝てる。神戸製鋼が全国大会で優勝しますけど、「準優勝チームは神戸製鋼の2軍じゃないか」って言われましたね。

 大八木 紅白戦が熱かったな。思いっきりきよるんよね。ケガしたもん負けやったからね。今はそんなことやらへんよね。

 藪木 今はやらないですね。レギュラーを決める、競争をさせるためのバトルはやらないです。日本代表もやらないです。危ないので。試合の中でのパフォーマンスで決めます。チーム内バトルはないです。

 大八木 だから日本代表はワンチームになれるんや。
 オレらのころの(神戸製鋼は)仲悪かったもんな。最後のほう。練習だけ集まって、あとはバラバラやったもんな。それが強さの秘訣(ひけつ)やったかもしれんな。

 藪木 個性ある人たちが、たくさんおられたのでね。

 大八木 でもアマチュアで、サラリーマンでね。アマチュアの問題点がたくさんあった。みんな(チームを)辞めていかなあかんし。複雑やった。でも今、日本のラグビーは世界的に一番、うまいこといっているのとちゃうの?
 (完全な)プロリーグを作らないで、なんとなく社会人リーグの延長線で。

 藪木 母体となる会社があってね。

 大八木 そこにプロの選手もいて、(会社員の)社会人選手もいて、一番良いのとちがうの。ギャラもいいんやろ?

 藪木 海外の選手は破格の値段ですね。

 大八木 彼らも良いシステムとたくさん来てるしね。
 僕が世界に行ったときに、カンタベリーの選手たちが、日本が一番プロだと言っていた。一企業でチームを持っていて、全員がその企業からお金をもらっている。当時のニュージーランドの選手は農業をやっている選手もいるし、自営、弁護士、学校の先生とか、いろいろな職業で稼いでやっていた。

 藪木 会社にプロテクトされているので安泰ですよね。
 移籍は私たちのころよりも多くなりましたが、移籍しても行った先の主たる会社から守られている。

 大八木 今はいいシステムやからワールドカップで活躍した選手が、どんどん入ってくる。でも、あれだけ(外国人選手が)入ってきたら、日本人選手、例えばオレらの時代みたいに高校から入ってくるような選手は育ちにくいのとちがうの?

 藪木 善し、悪しがあって、ひとつは日本代表の強化を考えると、世界の一流選手が日本に来て、そこと相まみえるというのは良いと思います。大八木さんが言われた日本ラグビー界の一番の課題である育成の部分を考えたらネガティブですね。
 どうしても外国人ばかりになるので。トライしているのも記録用紙を見たら、みんなカタカナだし。トライするのもコンバージョンキックするのもカタカナの選手ばかりで、日本人選手が全然出てこない。

 大八木 個人的な意見でもいいので対策はある?

 藪木 使う(外国人)枠を厳しくしないとダメですね。来てもいいんですけど。

 大八木 オレも世界のラグビーのことを聞いているけど、(経営としては)ぜんぜん成り立ってないみたいやね。フランスラグビーは成り立っているんやけど、他の国はあかんみたいやね。
 ここだけの話、一番いい外国人はいくらくらいもらえるの?

 藪木 1億とかじゃないですかね。

 大八木 大谷翔平にはかなわんな。千分の一やもんなぁ。

 藪木 1000年でも追いつかない。

 ◇藪木 宏之(やぶき・ひろゆき)1966年(昭41)3月12日、山口県生まれの57歳。山口・大津高からラグビーを始め、明治大―神戸製鋼。神戸製鋼では日本選手権7連覇に貢献。2019年に日本で開催されたワールドカップでは日本代表のチームメディアマネジャーを務めた。現役時代のポジションはスタンドオフ、スクラムハーフ。

 ◇大八木 淳史(おおやぎ・あつし)1961年(昭36)8月15日、京都市生まれの62歳。伏見工からラグビーを始め、同志社大―神戸製鋼。同志社大時代は大学選手権3連覇、神戸製鋼時代は日本選手権7連覇に貢献。現役時代のポジションはロック。日本代表キャップ30。
  

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