課題は明白、解決策もある。あとは決断できるかどうか――岐路に立つ日本ラグビー界

[ 2023年10月12日 12:31 ]

<日本・アルゼンチン>大会を終え、場内を回って頭を下げあいさつする日本代表フィフティーン(撮影・篠原 岳夫)
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 エベレスト登頂に例えたラグビー日本代表のW杯フランス大会優勝への挑戦は、1次リーグを2勝2敗の敗退で幕を下ろした。D組3位で次回27年大会の出場権は確保したものの、決勝トーナメントにも到達できなかったという結果は、理想と現実に大きな開きがあったと捉えていいだろう。果たして頂上まで、あとどれほどの距離があるのか。そして届かなかった要因は何なのか。

 原因究明は、実はそれほど難しくない。最たるものは、すでに盛んに指摘されている通り「選手層の薄さ」。大会を通じて一度も出番のなかった選手の数は、15年は31人中2人、19年は31人中5人で、今大会では追加招集された山中を含め、34人中5人だった。割合としては4年前より少ないが、サモア戦では急きょリザーブ入りから5分だけ出場し、アルゼンチン戦ではベンチ待機も出番のなかった福田の使われ方を見れば、戦力になりきれていなかったのは明らかだった。

 1次リーグで出場した選手は計29人だったが、この数も4大会ぶりに8強入りしたフィジー、1勝もできずに敗退したジョージアと並んで最少だった。一方で8人が全4試合に先発し、この8人を含む計18人が途中出場を含めて4試合に出場している。皮肉なことに、前回大会よりも1次リーグの期間が1週間延びたことで、日本は全ての試合が中6日以上と日程面でも恵まれ、主力がより多くの試合に出やすい状況だった。現実的には最も格下のチリとの対戦で主力を温存する選択肢があったはずだが、大会初戦だったことも手伝い、ジョセフ・ヘッドコーチはその選択をしなかった。W杯は試す場ではなく、あくまで4年に一度の真剣勝負の舞台。石橋を叩いて渡る選択肢は、現場指揮官としては当然だったとも言える。

 なぜ4年前も課題だった選手層は薄いままだったのか。これも答えは明白で、新型コロナウイルスの影響が一番大きかった。20年の丸1年間は代表活動が止まった。当時のトップリーグも途中打ち切りとなったことで、選手の新陳代謝は思うように進まず。W杯本番を含め、16~19年は非テストマッチを含めた日本代表戦が38試合あった一方、20~23年は26試合に留まった。前者の4年間は75人が初キャップを獲得した一方、後者は33人と半分に留まる。日常的に国際経験を積めるスーパーラグビーに参加する手立ても失った。

 不可抗力とも言える状況に、手をこまねいていたわけではないが、その都度逆風にさらされた。20年秋にはニュージーランドに長期滞在し、州代表などとの試合を重ね、最後にオールブラックスと対戦するプランが浮上したが、現場と協会側の意思疎通がうまくいかず、白紙になった。活動を再開した21年も、当時の代表メンバー全体のワクチン接種率が低かったため、特に海外遠征ではさまざまな制約を強いられ、強化の足かせになっていた。

 W杯が1年後に迫った22年、遅れを取り戻そうと春には正規の日本代表とナショナルデベロップメントスコッド(NDS)に分け、計70人規模で活動。秋も約50人で当初の合宿を行ったが、全ての選手に出場機会があったわけではない。何より結果的に痛手となったのは、当時松田がケガで不在だったSOや、主にフィフィタ、ファンデンヒーファー、山中が中心選手だったバックスリーは、W杯本番ではガラッと顔ぶれが変わったこと。大会登録メンバーも8月15日の最初の発表から月末まで追加や入れ替えを繰り返した。誤算、変心、迷走と、最後まで歯車はかみ合うことなく本番を迎え、望まぬ結果に終わった。

 4年後、再び8強入りを果たすだけの力量ある選手層をつくるためには、どんな方策が考えられるか。スーパーラグビーに再び参戦し、W杯イヤーは年明けから長期合宿を張れば解決するが、今となっては現実離れしている。リーグワンは24~25年シーズンのフェーズ2から試合数を増やす計画で、時期が重複するスーパーラグビーの参戦も、長期合宿も不可能。その中で現実的なプランの一つが、NDSの常設化と実戦機会の創出だろう。

 大会中、本紙で試合解説をしていただいたリーグワン静岡の堀川隆延アシスタントコーチも指摘したように、選手層を厚くするには最も効果が見込め、実現可能な策だろう。6月には福岡市内に自前の強化施設であるジャパンベースを開設したことで、ハード面も整っている。ニュージーランド、オーストラリアとは相互連携の覚書を交わし、正規代表同士のテストマッチ以外の試合も組みやすい状況にある。

 そして選手が日常的に参加するリーグワンを底上げするために提案したいのが、出場登録カテゴリーのさらなる解放だ。現在は他国代表歴のある選手、いわゆるカテゴリーC選手の試合登録は3人以下で、オンザピッチも同数だ。これを例えば倍の6人に広げ、世界のトッププレーヤーの来日をさらに促し、レベルを高める。若い日本人選手が割を食うのは承知の上。ただ、その環境でメンバー入りを勝ち取り、試合で揉まれれば、スムーズに代表レベルで活躍できる選手が育つ。一方でそのくらいドラスティックな変化がなければ、4年後までにリーグのレベルを引き上げることは難しい。

 もちろん継続して海外挑戦をする選手の出現も重要だろう。21年にハイランダーズでプレーした姫野、21年、22年とフランスに挑戦した松島の後に続く選手が現状ではいないのは寂しい。ここは一つ、強化担当責任者としてハイランダーズに復帰するジョセフ・ヘッドコーチにつてを頼ってはどうか。毎年1人でも2人でも成長株の選手をハイランダーズに獲得してもらい、スーパーラグビーを経験させる。日本協会がジョセフ氏とアドバイザリー契約を結ぶなどすれば、比較的容易に事が進むのではないか。

 11日の総括会見。退任するジョセフ・ヘッドコーチが指摘したのは、日本ラグビー界の特殊な構造が、代表強化の足かせとなっているということだった。思えば前任者のエディー・ジョーンズ氏も同様の指摘を行い、15年大会後に退任した。8年前から日本ラグビーも、ラグビー界の構造も発展はしたが、そのスピードは世界の潮流に追い付いていない、あるいはW杯で望む結果を得るためには足りていないということになる。

 去り際のヘッドコーチに2代続けて、同じメッセージを発せられた日本ラグビー界。どう向き合い、課題解決に取り組むのか。あるいは聞き耳を持たず、流してしまうのか。変革の波に乗ったフィジーは8強入りを果たし、センセーショナルな活躍を見せたポルトガルは世界ランキングで一つ下の13位に迫っている。日本は今、大きな岐路に立たされている。(記者コラム・阿部 令)

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