相次ぐ「プロ転向」に感じる違和感 正しくは「フリー転向」?

[ 2017年1月6日 08:30 ]

 ゴルフのマスターズが行われるオーガスタ・ナショナルGCには、クラブハウスの上階に「クロウズ・ネスト(カラスの巣)」と呼ばれる部屋がある。大会全体の華やかさとは比べるべくもない簡素な小部屋だが、出場するアマチュアは期間中に宿泊施設として使うことができ、タイガー・ウッズやジャック・ニクラウスもここに滞在した。

 泊まる際には一応の宿泊費を支払う。もしコース側が無償提供してしまえば、ゴルフの技量によって利益を得たことになり、それはもうプロとみなされるからである。アマチュアとしての立場を守るためにも、わずかばかりの手数料が形式的に徴収されるのである。

 最近はアスリートの「プロ転向」の話題をよく目にするようになった。しかし、この言葉にはどこか引っかかるものがある。彼らはすでにプロだったのではないか、と。

 ゴルフやテニスであれば、プロの大会に出てもアマチュアには賞金は出ない。交通費などの便宜も受けられず、CM出演も不可能。松山英樹もアマチュア時代には合計賞金1億円に相当する結果を残しながら、一銭も手にすることはなかった。

 だが、いわゆるアマチュアスポーツといわれる競技の選手たちは、当たり前のように賞金を受け取っているし、CMでもその姿を見かける。企業に属していても練習や大会が最優先され、フルタイムで仕事をしているトップアスリートは皆無だろう。

 つまり彼らはその競技の技量によって、社員と同等(もしくはそれ以上)の給料を受け取る、という契約を各企業と結んだプロなのである。アスリートとしての新しい一歩として「プロ転向」という言葉にはヒロイックな響きがあるが、実際は「退社」や「独立」であったり、「フリー転向」というのが正しい表現だろう。

 日本オリンピック委員会(JOC)も「JOCとしてはプロとアマチュアの規定というのはありません。おそらくほとんどの加盟団体にもないでしょう」としている。社員でなくなれば“固定給”がなくなるリスクをはらむが、活動の自由度はぐっと高まる。CM出演も複数こなすこともできるし、多額の契約金を得て所属契約を結ぶことも可能だ。

 それをプロ転向と呼ぶかどうかは別にして、もちろんその決断は称賛に値すると思う。男子マラソンでは川内優輝(埼玉県)が実業団の対抗軸としてのあり方を示したように、さまざまな形態で活動できることがアスリートの選択肢を広げ、業界を活性化させることは間違いないからだ。独立独歩の道を選んだ彼らの挑戦が実を結び、彼らに続く選手が現れることを待ちたい。(雨宮 圭吾)

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2017年1月6日のニュース