×

大江健三郎さん死去 88歳老衰 ノーベル文学賞作家 平和と反核訴え 家族との体験が大江文学の柱に

[ 2023年3月14日 05:00 ]

大江健三郎の関係図
Photo By スポニチ

 ノーベル文学賞作家の大江健三郎(おおえ・けんざぶろう)さんが3日午前3時過ぎ、老衰のため病院で死去した。88歳。愛媛県大瀬村(現内子町)出身。葬儀は家族葬として執り行われた。喪主は妻ゆかりさん。後日お別れの会を開く予定。

 愛媛・松山東高から東大に進み、同大文学部仏文科在学中の57年に作家デビュー。翌58年に「飼育」で芥川賞を受賞した。23歳だった。松山東高の同窓には、のちに映画「マルサの女」などでメガホンを取る伊丹十三さんがいた。60年に結婚した妻ゆかりさんは伊丹さんの妹だった。

 芥川賞受賞後も「万延元年のフットボール」が谷崎潤一郎賞、「洪水はわが魂に及び」が野間文芸賞に輝くなど数多くの文学賞を受賞。その作品群は海外でも高く評価され、94年には川端康成に次ぐ日本人2人目のノーベル文学賞作家に。「全人間に関わるものの表現に成功した」というのが受賞理由だった。当時、大江さんは「日本文学が受賞できて誇りに思う。何人もの先輩が築き上げた流れのおかげで、まだ、生きている私がもらった」と受賞の喜びを語っていた。

 63年に誕生した長男で作曲家の光さんは、知的障がいを抱えて生まれてきた。障がいのある子と生きる決意をした男性を描いた「個人的な体験」など、自身と家族をモデルにした作品も大江文学の大きな柱の一つだった。

 「行動する作家」として言論活動の最前線にも立ち続けた。冷戦構造と核兵器の脅威が世界を覆う時代を背景に「ヒロシマ・ノート」、「沖縄ノート」を著し、積極的に平和と反核を唱えた。護憲運動では評論家の加藤周一さん、作家の井上ひさしさんらと「九条の会」を結成。2011年の東日本大震災後には数万人規模の大集会でマイクの前に立ち、脱原発を訴えた。

 「選んでいただくのはありがたいが、税金を使った賞は原則として受けない」と国の文化勲章、故郷愛媛の県功労賞などの受賞は辞退していた。

 ≪東大在学中から作家活動≫

 大江 健三郎(おおえ・けんざぶろう)1935年(昭10)1月31日生まれ、愛媛県出身。四国の谷あいの村や森で幼少期を過ごす。東大在学中から作家活動。芥川賞を受賞した「飼育」は大島渚監督で、「静かな生活」は伊丹十三監督で映画化。18年から集大成の「大江健三郎全小説」(全15巻)を刊行していた。

続きを表示

2023年3月14日のニュース