【天皇賞・秋】ジャックドール100点 眼光鋭い竜になった 立ち姿には余裕が

[ 2022年10月25日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

ジャックドール
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 盾決戦に断を下すのは竜の目だ。鈴木康弘元調教師(78)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第166回天皇賞・秋(30日、東京)ではジャックドールに唯一満点をつけた。達眼が捉えたのは大阪杯(5着)時から一変した目つき。竜のような覇気に満ちた瞳で16年秋のモーリスに続く父子盾制覇を見据えている。

 目は心の鏡と言います。心の中を包み隠さず映し出す目を見ればその人の精神状態が分かるとの意味。気持ちを言葉で伝えられない馬は人間以上にくっきりと目に感情を表します。曇りのない鏡に映すように…。3歳、古馬の強豪が群雄割拠の盾決戦。「鏡よ、鏡よ、鏡さん。天皇賞で一番強いのは誰?」。童話「白雪姫」に登場するお妃(きさき)みたいに心の鏡に尋ねれば…。

 ジャックドールの目が映し出すのは心境の変化です。前回のG1大阪杯(5着)時には正面に向いたおとなしい目つきが鋭くなっている。左側から撮影するカメラマンをにらみつけるように強い眼光を放っています。その一方で尾をごく自然に垂らしながら余裕をもって立っている。感情を害して目つきがとがったわけではない。心の鏡に映し出されているのは闘争心。大阪杯時の馬体と違っているのはこの一点だけですが、最も肝心な一点が変わったと言えます。

 大阪杯では目つきを除けば非の打ちどころがなかった。当時の馬体診断ではこう書きました。「ボリューム感あふれる首、胸前、肩の筋肉。トモはもっと立派。500キロ超の大型馬でも骨格のつくりに無駄がない。各部位が機能的につながっている」。そんな賛辞を重ねた馬体は半年たっても変わっていません。父モーリスの影響が強い筋肉マッチョなマイラー体形とはいえ、優れた機能性で2000メートルまでは対応できる。マイルG14勝の父が距離に融通を利かせて天皇賞・秋も制したように。

 ルックスは父以上に派手です。特徴を列挙すると…栗毛、大流星、鼻梁(りょう)鼻大白、下唇白、四長白(幅広の白班が鼻筋から下唇まで長く伸び、四肢にも長い白班)。ドール(フランス語で黄金の)という馬名通り、タテガミや前髪は黄金色に輝く尾花栗毛に見えます。遠目にもまぶしく映る栗毛と白班の美しいコントラストも今回と同じ。ただ、半年前は目力だけが備わっていなかった。

 画竜点睛(がりょうてんせい)を欠くといいます。竜の絵を描いても総仕上げの目入れ(点睛)がなされていない。転じて、ほぼ完成したが、肝心な一点が抜けているため全体が生きてこないこと。今回は大阪杯時に唯一抜けていた鋭い目が入り、竜のような覇気を伝えてくれます。「鏡よ、鏡よ、鏡さん。天皇賞で一番強いのは誰?」。心の鏡が映し出すのはジャックドールの瞳。 (NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の78歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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