舞台魂(4)橋爪功「飛び立つ前に」 たたずまいで孤独を表現

[ 2025年12月21日 21:50 ]

橋爪功が主演する舞台「飛び立つ前に」の1シーン(撮影:細野晋司)
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 俳優の橋爪功(84)の主演舞台「飛び立つ前に」が21日、東京芸術劇場・シアターイーストで千秋楽を迎えた。老いと死を静かに描いた作品は、場面によって“不在”が変化。同じ空間でありながら、“飛び立った”とされる人物が変わる度に、その愛用品までもが魂を失ったように感じられる不思議な体験だった。(レポート:西村 綾乃)

 フランスの劇作家フロリアン・ゼレール氏(46)が家族をテーマにした3部作「父」、「息子」、「母」に続く最新作。フランスの郊外で暮らす、結婚生活50年を迎えた夫婦の物語だ。

 使い込まれたダイニングテーブルが置かれたリビング。棚には食卓を彩る食器が収納されている。壁に掛かったフライパン、スパイスなどが並ぶキッチン。再び舞台を見渡した時、家族が顔を合わせるリビングに夫婦の写真が1枚しか飾られていないことに気がついた。

 結婚して子どもに恵まれ、このリビングが笑い声でにぎやかだったのは、過去の出来事なのだろう。そんなことを考えながら開演時刻を待っていた。

 小鳥の鳴き声が、舞台の世界へと誘ってくれた冒頭。窓の外をぼんやりと見つめるアンドレ(橋爪)の姿が目に飛び込んだ時、何とも言えない寂しさを感じ、胸を締め付けられた。そのたたずまいで、孤独を伝える表現力に圧倒された。

 妻・マドレーヌ(若村麻由美)を失った家は、時間が止まっているよう。愛する夫の好物・きのこと卵を使ったスペシャリテを作るためマドレーヌが振ったフライパンも、主をなくした悲しみで、くすんで見えてくる。

 長女(奥貫薫)と次女(前田敦子)らの訪問によって、リビングの時間は過去、今を行き来。アンドレが亡くなっているとされる状況下では、長く使われず、ほこりをかぶっているように見えた鍋が、磨きたてのように輝いて見え、物にも魂が宿っていることが感じられた。

 アンドレは「人生は短い。だからケンカをしている時間なんてない」と言い、マドレーヌは「人生は恐ろしく長いもの。死は全てを解き放つもの」と説く。

 50年の結婚生活について「完璧な愛ではなかったのではないか」という疑念が夫婦の間に暗い影を落としていくが、巻き戻すことが出来ない時間を共に過ごしたこと。自分の過去を知る他者がいるということが、かけがえないのない財産なのではないかと感じた。

 公演は、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(26~28日)、島根県芸術文化センター「グラントワ」大ホール(2026年1月10、11日)、メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)演劇ホール(1月17、18日)、あきた芸術劇場ミルハス 中ホール(1月24、25日)、富山・オーバード・ホール 中ホール(1月31日、2月1日)でも上演される。

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