「どうする家康」ネット号泣…瀬名&家康“微笑みの永訣”演出語る裏側 総力結集の一発撮り&カニ柄の小袖

[ 2023年7月2日 20:45 ]

大河ドラマ「どうする家康」第25話。永訣の時を迎える徳川家康(松本潤)と瀬名(有村架純)(C)NHK
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 嵐の松本潤(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は2日、第25回が放送され、前半最大のクライマックス「築山殿事件」「信康事件」(天正7年、1579年)が描かれた。主人公・徳川家康が愛妻・瀬名と愛息・松平信康を同時に失う人生最大の悲劇。戦のない“慈愛の国”を目指し、信念を貫いた2人の最期に、号泣の視聴者が続出。SNS上には「瀬名&信康ロス」が広がった。チーフ演出の村橋直樹監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。

 第25回は「はるかに遠い夢」。武田勝頼(眞栄田郷敦)により暴かれた瀬名(有村架純)と松平信康(細田佳央太)の計画。それは織田信長(岡田准一)も知るところとなる。2人の始末をつけなければ、織田と戦になる。それでも徳川家康(松本潤)は信長の目をあざむき、妻子を逃がそうと覚悟を固める。一方、瀬名は五徳(久保史緒里)に「姑は悪女だ」という訴状を信長に書くよう命じ、すべての責任を負う決意。岡崎城を出た信康もまた、逃げ延びることを良しとしない…という展開。

 第25回の台本の冒頭には「瀬名と信康の、そのすべてを達観した眼差し。微笑み合う2人は、ともに何かを受け入れている」のト書き。第18回「真・三方ヶ原合戦」など時間軸を自在に操るドラマチックな展開が古沢脚本の真骨頂だが、村橋監督は「家康の替え玉作戦はありますが、古沢さんならもうひとヤマ、もうひと波乱あるのかなと予想していたので、最初に台本を読んだ時は、2人が冒頭から死を受け入れていて非常に静かな回だなと感じました。ひたすら最期に向かっていく2人の姿を、しっとり静かに撮りたい。そんなイメージがありました」と演出プランを練った。

 家康は“替え玉作戦”を敢行。しかし、瀬名は身代わりの女を逃した。

 二俣城。信康は「お方様は、無事お逃げになりました」という服部半蔵(山田孝之)の嘘を見抜き、自害した。

 その十数日前。家康は本多忠勝(平八郎)(山田裕貴)、榊原康政(小平太)(杉野遥亮)とともに佐鳴湖へ行き「死んではならん。生きてくれ」と説得。しかし、愛妻は頑なに自らの運命を受け入れた。

 瀬名&家康のラストシーンについて、村橋監督は「まず、何回もできるようなお芝居じゃないですよね。せいぜい2回。なので、有村さんサイドを撮る時と松本さんサイドを撮る時、1回ずつ、テストは簡単な動きの確認だけで、ほぼ一発撮りの形を採りました。テストをしてしまうと、やっぱりお芝居の鮮度が落ちていきますから」と述懐。第18回の夏目広次の最期なども一発撮りで「ここぞという時の、好きな撮り方なんです。僕の担当回の家康と瀬名のシーンに関しては、最初で最後でした」と明かした。

 瀬名は家康に“木彫りの兎”を手渡し「兎はずっと強うございます。狼よりもずっとずっと強うございます!あなたならできます、必ず」と再び夫の手に口づけ。手を離すと微笑みを浮かべ「瀬名は、ずっと見守っております」――。泣きじゃくる家康も、必死に笑い返した。

 「もう松本さんは涙と鼻水でグチャグチャなんですけど、有村さんのお芝居を受けて、笑って去っていくんですよね。『笑い合う2人』とはト書きにありませんし、僕も具体的な演出はつけていません。自分の最後の姿を、どういうふうに相手に焼きつけるか。お二人のお芝居がシンクロして、『永訣』という言葉にふさわしい、別れのシーンになったと思います」

 今生の別れに、瀬名が笑うのは予想外だったのか。

 「笑うこと自体はそれほど意外でもないですが、とにかく有村さんの表情がいいんです。これは『いい』とか『凄い』としか言いようがない。客観的に見ると、悲劇に見舞われたかわいそうな人でも、覚悟を決めた人間というのは最後、悟りのような境地に達して、こういう表情になるんだなと。となると、次は松本さんの番で、まさに『さあ、どうする松本潤』ですよね(笑)。でも、最高のお芝居を返してくれました。流石は25回かけて、関係を深めてきただけのことはあると。やっぱり、お芝居は1人じゃできない。相手あってのものですから」

 今作は最新の撮影技術「巨大LEDパネル」を背景に用い、合戦シーンをはじめ、ロケを行わずとも臨場感あふれる映像を生み出している。天候に左右されない、過酷なロケを避けられるなどのメリットもあり「湖畔のシーンもセットで撮影しましたけど、美術部も素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれました。ここは一発撮りでいきたかったので、天気待ちも気にせず、お芝居に集中してもらう環境を整えるという意味では、スタジオに持ち込んだのも、ある種、正解だったなと思います」と手応えを語った。

 瀬名が最期を迎える時にまとっていた小袖の“カニ柄”は、第7回「わしの家」(2月19日)の冒頭、家康と幼き信康(竹千代)・亀姫が着ていた浴衣ともの。家康は浅葱に白のカニ、信康・亀姫は白地に紺のカニ。第23回「瀬名、覚醒」(6月18日)の冒頭と中盤、生まれてくる信康と五徳の子どものために、瀬名が縫い直していた。

 徳川家康が着たと伝わる浴衣の1つに「薄水色麻地蟹文浴衣(うすみずいろあさじかにもんゆかた)」があり、徳川美術館(名古屋市)に所蔵。今回、瀬名がカニ柄の着物に袖を通したのは、人物デザイン監修を務める柘植伊佐夫氏のアイデアだ。

 カニ柄は家康一家にとって穏やかな日々の象徴。「流石は柘植さんですよね。とうに腹を括っていても、本当は瀬名にも未練があるんじゃないか。そんな哀愁のような感情がにじみ出るといいなと思いました」。第25回はキャスト・スタッフ一丸の結晶。前半の集大成となった。

 ◇村橋 直樹(むらはし・なおき)2010年、中途採用でNHK入局。初赴任地は徳島放送局。13年からドラマ部。演出の1人を務めた18年「透明なゆりかご」(主演・清原果耶)、19年「サギデカ」(主演・木村文乃)が文化庁芸術祭「テレビ・ドラマ部門」大賞に輝いた。大河ドラマに携わるのは14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出、第28回・第32回を担当)、21年「青天を衝け」(セカンド演出、全41回中9回を担当)に続き4作目。今作は第2回「兎と狼」、第3回「三河平定戦」、第4回「清須でどうする!」、第11回「信玄との密約」、第12回「氏真」、第18回「真・三方ヶ原合戦」、第25回「はるかに遠い夢」を担当している。

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