5月以降の興行再開目指すボクシング界 暗闇の中で踏み出す一歩
出口の見えないトンネルが続いている。先月26日に大規模イベントの自粛要請が出されてから1カ月が経過しようとしているが、新型コロナウイルス感染拡大が終息する気配は見えてこない。大相撲春場所は無観客で実施され、プロ野球は開幕を延期、Jリーグも中断が続いている。大半のスポーツイベントが中止、延期に追い込まれ、ついにはIOCが東京五輪について「延期を含め検討する」と発表した。
もちろんボクシング界にも影響し、日本ボクシングコミッション(JBC)と日本プロボクシング協会(JPBA)は4月末まで、無観客で行う新人王予選を除く全ての興行の中止、延期を決定している。大相撲やプロ野球、Jリーグなどと違ってプロボクシングは個々のプロモーターの自主興行。一部の世界戦などを除いて収入の大半はチケット販売によるもので、興行中止は死活問題。それでもJBCとJPBAが連携し、他競技よりも早い段階で中止、延期の決断をしたことは高く評価されるべきだろう。
利益よりもファン(観客)の安全を第一に考え、選手の健康を優先し、精神面への影響にも配慮した。一方では将来的な業界の発展を見据えて協会主催の新人王予選は無観客で実施、同時にインターネットでのライブ配信など新たな収益の手段を模索する動きもあり、一丸となって困難を乗り越えようとしている。
以前、亀田興毅ら3兄弟が所属する亀田プロモーションがJBCとその理事10人に損害賠償を求めた訴訟の判決前に「クラブ制度というシステムが見直しを迫られる可能性もある」と指摘した。ジム会長(オーナー)への処分が選手個人の活動の妨げになったためだが、決してクラブ制度そのものを否定するつもりはない。リングの上では1対1で戦うボクシングだが、さまざまな危険を伴う競技であり、練習や試合における管理責任の所在を明確にしておくことは大切であり、日本独自のシステムであるクラブ制度は選手の保護、育成に大きな役割を果たしている。かつて移籍が認められず、批判されたこともあったが、すでに改善済み。今回のコロナ禍でボクサーたちが受けた被害は小さくないが、クラブ制度という“防波堤”がなければ、選手たちのダメージはもっと大きかったかもしれない。
ただ“限界”は近づいている。23日に開かれたJBCとJPBAの連絡協議会では4月30日までとした興行自粛の期間を延長しない方針を固めた。開催のための条件を定め、5月以降の興行再開を目指す。もちろん、今後の状況次第で中止となる可能性も残すが、暗闇の中で一歩前に踏み出した感はある。ボクシングに限らずスポーツイベントの開催には賛否があるだろう。それでもスポーツには閉塞(へいそく)感を打破し、人々を元気にする力があると信じて再開の時を待ちたい。(記者コラム・大内 辰祐)