【内田雅也の追球】風向きを“変える”

[ 2025年9月11日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―6DeNA ( 2025年9月10日    甲子園 )

この日の甲子園球場は強い浜風が吹いていた
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 5回表、甲子園球場の関係者通路で会った前阪神球団社長の百北幸司(現阪神コンテンツリンク会長)が「あれは、風ですか?」と聞いてきた。「あんなぎりぎりの所に入るなんて……」

 4回表、DeNA・筒香嘉智に浴びた逆転3ランのことだ。伊藤将司の高めカットボールを打ち上げた打球は風に乗り、左翼ポール際に吸い込まれていった。

 試合前から右翼から左翼に向け強い浜風が吹いていた。当初の天気予報では午後6時前後に雨が降るはずで、それだと浜風は吹かない。外野後方の遠方で稲光は見えたが雨は結局降らなかった。

 伊藤将は「悔しいです」とコメントを残した。不運な被弾だが、これも甲子園を本拠地とする阪神投手の宿命である。

 江夏豊の俳句に<浜風に一喜一憂若き日々>がある。1990年、ラジオ番組出演中につくった。阪神時代の背番号から「二八」という俳号もある。師匠の木割大雄が「季語がないよ」と指摘すると「甲子園の浜風は秋よ!」と断言した。木割の句集『俺』(角川書店)にある。

 普通、浜風は夏に吹く。秋だというのは独特の感覚だ。秋の優勝争いのなか浜風に乗った手痛い一発を浴びたか。「喜」よりも「憂」の方をよく覚えているのだろう。

 ただし、季節は変わりゆく。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージが始まる10月15日には、浜風とは反対に右翼に風が吹いているかもしれない。

 <秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる>。秋の到来は目には見えないが、いずれ風の音ではっと気づく時がくる。

 村上春樹のデビュー作『風の歌を聴(き)け』で「頭の上をね、いつも悪い風が吹いてるのよ」と不運を嘆く女の子に「鼠(ねずみ)」が言う。「風向きも変わるさ」

 優勝から3日。ペナントレースを懸命に駆け抜けてきた猛虎たちには達成感や多幸感を味わう時間もほしい。百北は敗戦後「カード負け越しは久々ですね」と言った。2敗1雨だった7月15~17日の中日戦(甲子園)以来2カ月ぶりだ。

 監督・藤川球児は「目の前より、向こう側を見ている」と話した。CSまで1カ月以上、正確にはあと34日ある。風向きは変わる。いや、心の風向きを“変える”時はやって来る。 =敬称略=
 (編集委員)

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