【内田雅也の追球】ヴァシランドで行こう。

[ 2025年8月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―6広島 ( 2025年7月31日    甲子園 )

<神・広>4回、ファビアンの打球を好捕する熊谷(撮影・後藤 正志)
Photo By スポニチ

 阪神恒例の夏の長期ロード前、最後の一戦だった。きょう1日、甲子園を離れる。帰ってくるのは29日巨人戦である。

 先発捕手に栄枝裕貴を抜てきした。4月3日DeNA戦(京セラ)以来89試合ぶり2試合目の先発である。だが、先発の伊原陵人をうまくリードできず4回4失点で降板。栄枝も打席で中途半端な姿勢が目についた。そろって交代となった。

 「戦うというところで前向きでなかった。歯がゆかった」と敗戦後、監督・藤川球児は話した。

 同じく左翼で抜てきした中川勇斗(先発5試合目)や遊撃起用の熊谷敬宥(同11試合目)が「何の違和感もなく最後まで出ている」。たとえば、中川は打席では野球小僧のように“打ってやる”との闘志が垣間見えた。元は捕手だが、左翼守備も左前打でのチャージなど懸命にこなしていた。

 熊谷は球際の強さを見せた。4回表1死満塁の守り。遊撃左へのゴロを横っ跳び好捕して二封した。その裏の打席で二塁右をわずかにゴロで破る右前適時打を放った。

 もう何度も書いてきたが「球際」は巨人V9監督・川上哲治の言葉だ。著書『遺言』(文春文庫)で<わたしの造語で相撲の土俵際の強さから採った>と明かしている。<土壇場ぎりぎりまであきらめない、粘り強いプレーのことである>。それがプロだとしている。

 栄枝だけではない。成長には反省と経験がいる。「人には燃えることが重要だ」とパナソニック創業者、松下幸之助の名言にある。「燃えるためには薪(まき)が必要である。薪は悩みである。悩みが人を成長させる」。藤川も「悔しさは絶対必要」と話した。

 旅立ち前に思う。スペイン語に「vacilando」(ヴァシランド)という言葉がある。動詞で「どこへ行くかよりも、どんな経験をするかを重視した旅をする」という意味だそうだ。エラ・フランシス・サンダースの『翻訳できない世界のことば』(創元社)で知った。確かに訳すのは難しい。

 夏のロードが旅なら、ペナントレースも春から秋までの長い旅だ。優勝という目的地にたどり着くまでの日々の戦いが大切である。藤川も優勝マジックが点灯した前日、「まだ道中ですから」と言った。旅の途中の過程や経験を重視している。

 ゆっくり急ぎ、ヴァシランドでいきたい。 =敬称略=
 (編集委員)

「阪神」特集記事

「大谷翔平」特集記事

野球の2025年8月1日のニュース