【内田雅也の追球】9回の椎葉起用に見た 自信と経験を与える虎将の用兵

[ 2024年2月21日 08:00 ]

練習試合   阪神2―0韓国サムスン ( 2024年2月20日    宜野座 )

<練習試合 神・サ>9回を無失点に抑え、坂本(右)と握手する椎葉(撮影・須田 麻祐子)
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 韓国・サムスンと練習試合がある朝、受付で阪神の練習メニューを手にとると、登板予定の投手が列挙されていた。先発の育成・川原陸から7人の名前がある。登板順に書かれていた。

 最後は新人の椎葉剛だった。独立球団・徳島からドラフト2位で入団した21歳、期待の右腕だ。

 ははーん、なるほど、と思った。

 実は椎葉は3日前(17日)の練習試合・楽天戦(宜野座)でも9回表に起用されていた。ただ、この時は4―1と3点リードから2ランを浴び、さらに2安打で2死一、三塁。何とか1点差でしのいだが、ヒヤヒヤのセーブだった。

 その椎葉を再び9回表に投げさせる。同じ場面で起用して、悪夢を早く払しょくさせる。自信をつけさせる。そんな意図が読み取れた。

 当欄で何度か書いてきたが、日本一となった1985(昭和60)年シーズン中、監督・吉田義男がサヨナラ本塁打を浴びた原辰徳に対し、直後の試合で再び福間納をぶつけた手法である。福間は原に快打されたが、ライナー性の左飛で、結果は打ち取り、優勝に欠かせぬ救援投手となった。

 監督・岡田彰布は同じ用兵を行い、椎葉の自信回復を狙ったのだろう。いや投手コーチ・安藤優也や久保田智之の進言を受けいれたのかもしれない。狙いは同じである。

 果たして椎葉は2―0という前回よりは厳しい9回表に登板した。結果だけを記せば遊ゴロ、三直、中飛の3者凡退。ただし、3人ともバットの芯で快打されていた。

 まだパワーピッチャーと評判だった実力は示せていない。それでも、結果が出たことで、椎葉は自信を得たことだろう。これが今後に生きる。シーズン中の戦力になる。

 岡田は若手投手のすべり出しにはことのほか気を配る。この日8回表に投げ、2三振を含む3者凡退に牛耳った3年目の岡留英貴を見ればいい。

 昨年キャンプ中の2月18日、DeNA戦(宜野座)に登板。死球、暴投、四球と乱れ、10球で降板。傷が浅いうちに降ろしたのだった。

 それでもシーズン中に初勝利を記録し日本シリーズでも投げた。今春は見違えるようになった。

 岡田は言った。「若い投手は1年でこんだけ変わる。もう自信満々で投げてますよ」。岡田が授けたのは自信と経験。それをまた椎葉にも与えていた。 =敬称略=(編集委員)

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