慶大・外丸東真 元ソフトB右腕ほうふつの制球力で導く高校とダブル日本一

[ 2023年11月15日 05:00 ]

ブルペンで力投する慶大・外丸(撮影・木村 揚輔)
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 「KEIO旋風」が止まらない。11年から6年間、NPB審判員を務めた柳内遼平記者(33)がフル装備で選手たちの魅力をジャッジする「突撃!スポニチアンパイア」の第10回。今回は夏の全国高校野球選手権大会で107年ぶりに優勝した慶応(神奈川)に続き、15日から開幕する明治神宮大会で日本一を狙う慶大のエース右腕・外丸東真投手(2年)に突撃した。

 月日がたってもNPB審判員時代の記憶は薄れない。大谷翔平(エンゼルスからFA)をはじめ、「凄い」と思った球道は脳裏に刻まれている。逆に「ボールは普通でも抑える」投手も印象深い。16年の2軍戦で球審を務めたソフトバンク・摂津正投手がそうだった。12年に沢村賞を受賞し、前年の15年に10勝を挙げた当時34歳のボールは「制球力は投手の命」と語っているようだった。

 それから7年、摂津をほうふつさせる右腕が大学球界に現れた。制球力を武器に、2年にして慶大のエースを担う最速149キロ右腕・外丸。今秋の東京六大学野球リーグ戦では8試合に登板し無敗の6勝で優勝に導いた。リーグトップの64回1/3を投げ、わずか11四死球。防御率は2位の1・54で、「ファンが選ぶMVP」にも選ばれた。ただ、球速は140キロ台前半で、決め球はスライダーという一見「普通な」投手。明治神宮大会直前、大活躍の謎を解くため慶大グラウンドを訪れた。

 午前8時に練習開始。昼過ぎに授業を控える外丸は急ぎ足でブルペンに登場だ。「プレー!」の合図でいざ、お手合わせ。初球は右打者のアウトローへ決まる136キロ直球。スピードガンの数字以上の勢いを感じさせた。

 秘訣(ひけつ)は極端にテイクバックが小さい「ショートアーム」投法にある。球審からは投球する寸前まで白球が体に隠れて見えない。そのため「いきなりボールが現れる」感覚に陥るのだ。18メートル44の距離よりも、前から投げている錯覚さえ起こる。あの摂津もそうだった。

 もう一つの秘密は「ピッチトンネル」。横の変化をつけるツーシームとスライダーの変化量は大きくないが、本塁寸前まで直球と同じ軌道を描く。複数の球種を途中まで直球と同じ軌道に通す理論を「ピッチトンネル」といい、DeNA・バウアーが若手投手にその重要性を説いたことでも知られる。外丸に「魔球」はないが、変化球と思わせない球筋から急激に変化することで打者を苦しめる。これが「無双」した2つ目の理由だった。

 たった28球のジャッジでもかなり体力を使った。ほとんどが「ストライク!」だったからだ。投球後、外丸に長所を伝えたが「まだ自分はスケールが小さい。150キロを超えていけるような投手になりたい」と向上心にあふれていた。習得中のフォークなど縦に落ちる決め球の精度が増し、課題とする直球の球威を高めることができれば、4年時には夢のプロ入りも描ける。

 前橋育英での3年夏には、甲子園大会の初戦で敗れて号泣した。大学では初の全国大会となる明治神宮大会に向け「日本一を目標にやってきた。4年生と一緒に達成したい」と気合十分。若き血が瞳の中で燃えていた。(柳内 遼平)

 ≪堀井監督「侍」に変身期待≫11月8日、侍ジャパン大学代表候補選手強化合宿(12月1~3日、愛媛)の参加選手44人が発表されたが、この秋、東京六大学リーグNo.1投手だった外丸の名前はなかった。大学日本代表監督を兼任する慶大・堀井哲也監督が「まだ早い」と招集を見送ったのには、確固たる理由がある。「このボールが凄い、という評価で選ばれるタイプではない」とし、続けて「外丸が投げれば勝てるという評価を勝ち取ってほしい」と常に勝てる投手に成長することを期待した。明治神宮大会、そして来季以降も勝ちを積み重ねた時、外丸が「侍」に変身することになる。

 ≪神対応すっかりファンに≫NPB審判員のメンバー表は、特殊な紙の素材が使用されている。水をはじき、破ろうと折り曲げても決して破れない。雨の日も風の日も正確にメンバー交代を記すためだ。動画班を引き連れ、外丸に「豆知識」を披露すると「破れない!破れない…」と楽しげにチャレンジしてくれた。さらに「今の反応で大丈夫でしたか?」と「撮れ高」の心配まで。

 【取材後記】練習後にはインドネシア語の授業を控えていた外丸は「ナマサヤーアヅマ・ソトマル…」と自己紹介を披露してくれた。「神対応」ぶりに取材班はすっかり大ファンに。慶大野球部の多くは慶応からの内部進学となるが、前橋育英からの入学でも早くからチームになじめたのは、彼の人を引きつける「人間性」によるものだろう。(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

 ◇外丸 東真(そとまる・あづま)2004年(平16)2月22日生まれ、前橋市出身の19歳。小3から野球を始め、桂萱中では軟式野球部に所属。前橋育英では3年夏に甲子園出場。慶大では1年春からリーグ戦デビューし、通算30試合で11勝6敗、防御率1.99。遠投100メートル。50メートル走6秒3。1メートル73、75キロ。右投げ右打ち。

 ◇柳内 遼平(やなぎうち・りょうへい)1990年(平2)9月20日生まれ、福岡県福津市出身の33歳。光陵(福岡)では外野手としてプレー。四国IL審判員を経て11~16年にNPB審判員。2軍戦では毎年100試合以上に出場、1軍初出場は15年9月28日のオリックス―楽天戦(京セラドーム)。16年限りで退職し、公務員を経て20年スポニチ入社。同年途中からアマチュア野球担当。

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